汀こるもの『パラダイス・クローズド THANATOS』
周囲の人々を災厄に巻き込む“死神”立花美樹とその双子の弟で“探偵”真樹。ふたりは監視役の刑事高槻を伴い、南の孤島へバカンスに出かけた。別荘を持つ作家に誘われたのだ。だが、台風で停電したその晩、主は何者かに殺害された。この閉ざされた孤島で、誰が殺人を犯すというのか・・・
「THANATOS」シリーズ第一作。
有栖川有栖さんの推薦文の意味がわかったような気がします。すなわち、それまでの本格ミステリの常識、固定概念を打ち破るということかと。
例えば、私立探偵や警察官、あるいは犯罪学者なんて職業を使うことで、犯罪と出会うことを正当化してきたのが従来の本格ミステリ。それを死神という一言で片づけてしまうとか。
あるいは、事件が集まるところをマークするとばかりに、“死神”美樹にピッタリと高槻をお目付け役として配備する警察とか。
とにかく、定石とか決まりごととか、ノックスの十戒とか、ヴァン・ダインの二十則とか、そういったものをニヤッとしながら壊していく、そんな感じの作品です。まあ、そもそも主人公からして双子ですからね。
ストーリーとはあまり関係のなくも見える魚に関する薀蓄が満載。さすがに全部は理解できなかったのですが、これも最近多いように思える薀蓄系ミステリへの当て付けかもしれません。
さらには、トリックの扱いに関しても、本格ミステリファンにとっては実にもったいないことをしています。こういった扱いが徹底していて、きっと同じネタでストレートに本格ミステリを書くよりも、余程手間と労力を用いたであろうことは想像できます。
本格ミステリにケンカを売りながらも、その裏側に本格ミステリへの溢れる愛情が見え隠れしている、そんな作品です。鼻で笑い、肩で風切るような態度が心地よい一冊でした。メフィスト賞らしい感じがします。どちらかと言えば、本格ミステリファンにこそ読んでほしいなあ。投げ出しても責任は持てませんが、
- 作者: 汀こるもの
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/02/15
- メディア: 文庫
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