西澤保彦『彼女はもういない』

 資産家であった親の遺産を相続し、悠々と暮らす鳴沢文彦。彼のもとに、同窓会の名簿が届いた。目で追ったのは、同級生の比奈岡奏絵の欄。バンド仲間だった彼女の連絡先が空欄になっていたことから、鳴沢は一気に道を外れていく。行き着くところは・・・


 どうしたものでしょう、この後味の悪さは。
 タイトルからはちょっと想像しにくかったのですが、いかにも西澤さんという感じのR-18ミステリ。女性ばかりを狙った猟奇的な連続殺人。この一文だけでもう西澤さんらしさがぷんぷんと臭ってくる気がします。


 さて、倒叙で書かれたこの作品、焦点となるのは犯人の動機、目的です。無差別殺人を装いながら、犯人は何を成し遂げようとしていたのか。明らかになる動機があまりにも事件の大きさにそぐわないのが気になります。こんな理由でこんなことするか? という具合。もちろん、行動そのものが異常ですから、動機との関連性が異常であってもおかしくないのでしょうが、ちょっと納得がいきません。それとも、自己顕示欲が強い人物にとっては、こんな動機でも何もおかしくはないのでしょうか。
 ただし、動機と行為の異常性はあるものの、その筋道はしっかり順序立てられていて、計画の論理はしっかりとしているあたりが、余計にこの犯人の異常性とおぞましさを際立てています。


 結末に明らかになる真相は大きな驚きと悲しみを連れてくるけれども、それもまた人によっては解釈が異なることになりそう。評価はともかく、印象に残る作品だったことは確かです。

2012年1月6日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
彼女はもういない

彼女はもういない

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