古野まほろ『天帝のあまかける墓姫』

 穴井戸栄子とアメリカに渡った古野まほろ。その帰途、乗り込んだ日本帝国政府専用機「おおろら」がハイジャックされた。虐殺に次ぐ虐殺で、70名ほどいた乗員乗客はわずか10数名に。ふたりのほかに、現職大臣や合衆国大統領の姪などが同乗するこの「おおろら」、いったい誰が敵で、誰が味方なのか、ハイジャック犯の狙いは・・・


 『果実』からいきなり3冊飛び越え、シリーズ第5作です。物語は『果実』の新訳に従って書かれているようで、旧訳とは若干食い違いが見られますが、困ることはありませんでした。
 さて、『果実』のアンコンメンバーから登場するのはまほろと栄子嬢のふたりだけといささかさびしい気もしたのですが 、あまりにもバッタバッタと人が死んでいくさまは、そんな寂しさなんてきれいさっぱり忘れさせてくれます。それでいいのか。
 陰惨な事件であっても登場人物がどこかのびのびとしていたように見えた『果実』に対して、こちらは動きも少なく、緊迫感のある状態です。まほろまほろであり、栄子は栄子なんだけれど、やはり状況が変わることによって登場人物も物語の雰囲気も少し変わっているようでした。このあたりは、やはり3作飛び越えて読んでいるからでしょうか。
 高度4,000メートルに位置する飛行機というクローズドサークルでの出来事だけに、否が応にも緊迫感は高まります。単純に、「この中の誰かが犯人」というものだけではありません。富士山よりも高いところから墜ちるかもしれないという雲の上の極限状態なのです。もし墜ちたりすれば、乗っている自分たちはもちろん、下の人たちにまで被害が及ぶ大惨事になってしまうという状況です。
 もちろん、緊迫感だけではありません。読者への挑戦は度々挟まれ、正しく論理的に解決へたどり着けることが明示されています。その真相への道筋は圧巻。たどり着いたと思われた地点から反転する手際の良さは見事としか言いようがありません。
 ただし、『果実』の印象が強烈だったこともあり、ちょっとしたおとなしさ、物足りなさを感じたりもしました。『華館』も楽しみですが、今度はその前にしっかり『御矢』『孤島』『鳳翔』を読んで備えます。


関連作:『天帝のはしたなき果実

2012年1月3日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ

天帝のあまかける墓姫
Amazonで購入
書評

asin:4344020766 rakuten:book:15617779