皆川博子『開かせていただき光栄です』

 18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室にある屍体の隠し場所の暖炉から、覚えのない屍体が出てきた。解剖途中で子宮を露出した妊婦を隠したはずが、現れたのは四肢を切断された屍体と、顔を潰された屍体。これは誰なのか? どうしてここからでてきたのか?


 うーん、この作品の魅力をどこから語ったらいいのだろう。とてもおもしろく読ませてもらいました。
 ロンドンにやってきたネイサンのパートと、ダニエルの解剖教室のパートが交互に登場する形で物語は進みます。
 前者は彼の悲劇であるのと同時に、当時のロンドンの猥雑な雰囲気、あるいは文化都市としての様子を伝えるだけでなく、それがストーリーにしっかり結びついてきます。エレイン嬢の装幀のあたりはなかなか興味深かったです。自分だけのオリジナルの装幀なんて、今はないですから。
 一方後者は、あらわれた屍体の謎解き。最後まで読まないとわかりませんが、細かいところまでしっかりと張られた伏線がお見事。また、探偵役を務める盲目の治安判事サー・ジョン・フィールディングが少しずつ事件の真相へと近づいていく様は、ミステリの醍醐味のひとつではないでしょうか。


 このサー・ジョンやその姪のアン、あるいは解剖教室の面々など、登場人物が魅力的なのもポイントのひとつ。誰もが個性的なのですが、特にダニエルの5人の弟子は二つ名のような異名がついていて特徴的。時にユーモラスに、また時に熱く事件に迫ります。
 どちらのパートも通して同じように少し耽美な雰囲気に彩られ、その世界に浸ることができます。いや、引き込まれると言った方が適切かもしれません。


 2011年のミステリの中でも、上質な収穫であることに間違いありません。おすすめの一冊です。

2011年11月13日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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 まったくの余談ですが、「チャターボックス」って言葉の意味、初めて知りました。「女子大生はチャターボックス」ってそういう意味だったんですね。