古野まほろ『群衆リドル Yの悲劇'93』

 新迎賓館「夢路邸」でのパーティーの招待状を送られた浪人中の渡辺夕佳。イエ先輩こと八重洲家康とともに出かけるが、招待客の顔触れや招待状の送り主はバラバラ。やがて雪山に孤立した「夢路邸」は招待客たちの犯した罪の告発会場と化し、ひとりまたひとりと殺害されることに。その都度残されたのは“Y”の文字・・・


 復活した古野まほろは新シリーズ。とはいうものの、初読の作家だったりします。読まず嫌いみたいな感じだったのですが、これはおもしろかったなあ。分厚さと独特の文体や表現から、これまでは少々敬遠していたのです。
 舞台は雪に閉ざされ、橋の爆破により下界との交通を遮断された山上の迎賓館。連続殺人。ダイイングメッセージ“Y”。「ロンドン橋落ちた」の見立て。ミッシングリンク――それだけでなんだかわくわくしてくるような道具立てじゃないですか。
 連続殺人のひとつひとつをとっても、実にさまざまな形でトリックが使われていて、読む者を飽きさせません。ああ、これは本格ミステリの醍醐味ですね。


 もっとも、これだけいかにも本格ミステリというガジェットをつぎ込むと、さすがに詰め込み過ぎかなあという気もします。ひとつひとつがちょっと浪費されているかのようで、贅沢というよりももったいないかなあ。


 さて、タイトルからして『月光ゲーム Yの悲劇'88』の影響を受けているわけですが、作中にもオマージュと見受けられる部分があり、思わずにやりとしてしまいます。『月光ゲーム』も再読したくなりました。


 抱いていた印象と比較すると、本作は控えめな作品で比較的オーソドックスなのではないでしょうか。それほどクセがある文体とも思えませんし、ルビ満載といった風でもありません。まほろ初心者にはちょうどよかったのかな。次も、というより他のシリーズも読んでみようと思います。

2011年11月6日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ
群衆リドル Yの悲劇’93

群衆リドル Yの悲劇’93

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