近藤史恵『サヴァイヴ』

 エースとは何か、アシストとは何か。そして、自転車ロードレースとは何か・・・


 『サクリファイス』『エデン』のスピンオフ短編集。一部は「Story Seller」シリーズで既読でした。
「老ビプネンの腹の中」
 前のチームメイトフェルナンデスが亡くなった。誓は頼まれて彼の遺体を確認することに・・・周りが見えなくて、平気で人の心を踏みにじる奴っているんですよね。薬物の過剰摂取など、ちょっと重い話でした。
「スピードの果て」
 公道での練習中、煽ってきたオートバイの事故を目撃した伊庭。それ以来、伊庭は勝負どころで踏み込めなくなった・・・きっかけはちょっとしたこと。こういうスポーツって、非常にデリケートなところがありますね。「だがもう少しやり方を考えろ」そのとおり。
プロトンの中の孤独」
 「チーム・オッジ」に加入したものの、馴染めない赤城。同時に加入し、溶け込もうとしない石尾の相談役を任された・・・再読。勝負の世界の非情さとともに、人間の心のつながりを感じさせる作品でした。
「レミング」
 ついにエースとなった石尾。絶対的な能力を持っている彼だが、突如不可解なレースが続いた。その訳は・・・再読。自己犠牲の世界における自己主張。負の一面というか、あまり見たくない面を見せつけられた気がします。
「ゴールよりももっと遠く」
 チーム・オッジのエースとして活躍する石尾。アクシデントの裏にあるものは・・・再読。やっぱり気分が晴れるわけではありません。企業スポーツである以上避けられない難しい問題。そして石尾の格好良さがもっとも印象的でした。
「トゥラーダ」
 移籍によってリスボンにやってきた誓。ホームステイ先の家主とともに闘牛を見に行き、体調を崩してしまう・・・最後まで、いやな面だなあという気がしました。


 全体的にサイクルロードレースの、あるいは企業スポーツの負の面ばかりを取り上げたような短編集でした。ですから、読んでいてちょっと気持ちの晴れない部分が残ってしまいました。
 再読でしたがおもしろく感じられたのはアシストの赤城とエース(候補)石尾を描いた中盤の三篇。自転車を取り上げたら何も残らないような石尾と良き理解者赤城の関係は、その立場ゆえに様々な問題に巻き込まれながらも、泰然としていて力強く、それが格好良く見えました。


収録作:「老ビプネンの腹の中」「スピードの果て」「プロトンの中の孤独」「レミング」「ゴールよりももっと遠く」「トゥラーダ」
関連作:『サクリファイス』『エデン

2011年11月2日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
サヴァイヴ

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