長沢樹『消失グラデーション』

 男子バスケ部員で、校内で美少女たちとの浮名を流す椎名康。椎名は絶対的なエース網川緑の不参加による女子バスケ部の確執に心を痛めていた。屋上でリストカットをした網川が階下に転落しているのを見かけた椎名は、駆けつけたところを何者かに襲われ、救出された時には網川は消えていた。校内への侵入が問題になっていた不審者の仕業なのか・・・


 選考委員になんだか尋常ではないような評価をされていた、第31回横溝正史ミステリ大賞受賞作。その評価のとおり、十分楽しませてもらいました。
 だから、この先を読むよりも、今すぐこの『消失グラデーション』を読んでもらいたいのです。選考委員絶賛のお墨つきがあるのですから。


 さて、物語は椎名と、不審者の問題に取り組んでいた放送部員の樋口真由のふたりが、消えてしまった網川の謎を追いかけます。
 表現するのが難しいのですが、いろいろなものを隠すのがうまいミステリでした。それは、網川消失の真相はもちろん、そのほかにも本当にいろいろなものをいろいろな形で隠しています。だからこそ、隠していたものが次から次へと一気に明らかになる終盤の見せ方が重要になるのですが、こちらも十分に活かした見せ方で、読者を唖然とさせてくれます。
 また、得意の撮影技術を活かし、椎名を引っ張っていく樋口の存在が、椎名だけでなく作品全体を引っ張っているようにも見えました。


 ミステリとしての出来もよかったけれど、それに加えてバスケットボールに打ち込む高校生たちの熱さが伝わってくる青春小説としても読み応えがありました。
 たとえ置かれた立場によって表現の方法や見え方は違っても、同じものにかける気持ちは根底でつながっている、ということが感じられ、それが少しうらやましく、そしてうれしくなりました。そんなミステリです。オススメ。 

2011年11月1日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ
消失グラデーション

消失グラデーション

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