森谷明子『白の祝宴 逸文紫式部日記』
里下がりしていた香子は出仕を促され、再び中宮彰子のもとに仕えることになった。彰子は出産をひかえ、土御門邸に里下がりしているのだ。その出産の宴の夜、土御門邸には都に蔓延る盗賊のひとりが逃げ込んでしまった。香子は、土御門邸でひそかに盗賊の足跡を追うことに・・・
『千年の黙』の続編。前作では「源氏物語」における「かかやく日の宮」の謎を追った香子と阿手木の主従が、今度は後の「紫式部日記」の成立の過程での事件に挑みます。
土御門邸に逃げ込んだ盗賊の行方を追うのが中心の謎解き。これには当時の時代背景や状況が巧みに活かされていて、真相をきれいに隠してしまいます。この隠し方がなかなか美しく、また単純にトリックに依存せず、その周辺がきっちり出来上がっているのがよかったです。
また、真相までの過程には長い時間がかかりますが、関係者として中宮彰子や女房たちが登場し、王朝ものとして華やかさを演出されるのもポイント。もちろん、彼女たちの言動はしっかり真相への手掛かりとなっていて、見落とすことはできません。土御門邸の中のことや外のこと、虚実とりまぜてひとつの世界が成立しています。
もうひとつ、この作品の稀有なところとして、作中の事件の謎を解くのと同時に、「紫式部日記」成立の謎を解いている点が挙げられます。すなわち、紫式部がひとりで書いているはずの日記なのに視点がバラバラだったり、つまらなかったりというありえない作品になっていることについて、森谷さんなりの解答を出したような形です。「紫式部日記」そのものは読んだことがありませんが、さもありなんという感じでした。
このシリーズとしては、来月『望月のあと 覚書源氏物語『若菜』』が刊行予定。また香子と阿手木の活躍が読めるの? それとも賢子? こちらも楽しみです。
関連作:『千年の黙 異本源氏物語』
- 作者: 森谷明子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/03/24
- メディア: 単行本
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