辻村深月『水底フェスタ』

 フェスの誘致で活気を取り戻した睦ツ代村で、湧谷広海の父は村長を務めている。村を捨て出て行った女優・織場由貴美に魅了され、広海は彼女の企みに協力することを約束する。由貴美は広海に告げた。「村を売る」と。だが、由貴美の本意は・・・


 今までの辻村作品とはちょっと違った、欝屈したような雰囲気を持った作品。
 正直に言って、登場人物に感情移入しにくい物語でした。それは、彼らがとった行動が気に入らない、彼らが皆自分自身のために行動しているからではないでしょうか。唯一そこから外れるように見える広海は由貴美に弄ばれているようにしか見えませんし、達也は日頃の行いがちょっと、と言うわけです。簡単に言えば、いやな奴ばっかりということになります。
 特に、この物語を支配する「村の因習」に従って行動する村民たちは、その真の姿が見えてくるととても嫌な気分になります。


 ただし、不思議なもので物語が進んで村が持つ真実が広海の前に露わになればなるほど、読む側としてはおもしろくなってきました。
 それは、この作品が閉鎖的なムラ社会を描き切ることに成功しており、これが主題だったからではないでしょうか。よそ者を排除し、村全体をひとつの利権システムに仕立て上げた共同体。それを守るためなら、村ぐるみでどんな不都合も隠蔽する社会。睦ツ代村は極端かもしれませんが、ここに似た地域はまだあるのかもしれません。
 また、そういったムラ社会に対抗しようとする広海や由貴美の姿は、大人と対峙する成長過程の姿です。これは過去の辻村作品の中心であった青春小説としての側面。さすがに読み応えがありました。
 これからこういった路線をとろうということなのか、それとも直木賞シフトなのかわかりませんが、ちょっと作風を広げたような作品でした。

2011年10月25日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
水底フェスタ

水底フェスタ

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