壁井ユカコ『サマーサイダー』

 夏休み、廃校になった母校に集まった倉田ミズ、惠悠、三浦誉の三人。幼いころは仲がよかったが、中学を卒業した今では微妙な関係だ。年齢的なこともあったが、そこには中学の担任だった佐野の変死事件が少なからず影響していた。思い出すのは、あの夏の出来事・・・


 タイトルからして、爽やかな青春を感じさせます。
 ストーリーも、幼なじみ三人が卒業とともに廃校になった母校に集まり、一年前を思い出すという、極めてまっとうな青春小説ですよ。
 それがどうしてこんな形になってしまうのか。
 いやぁ、気持ち悪かった。もう、序盤がどこかへすっ飛んで行ってしまうくらいに。少しずつその兆候は明らかにされていたのですが、ジワリジワリと迫ってくると落ち着かない気分に追い詰められているのがはっきりわかります。
 爽やかな青春一辺倒の単純な話ではないことは読む前からわかっていたのですが、その心づもりは全く意味がありませんでした。SFやホラー、青春小説であり恋愛小説。どれにどれを混ぜ、何が中心だったのかわからないような独特の物語です。
 ただ、後半のこういった場面の方がスリリングで、ページを繰る手は間違いなくこちらの方が早かったことは事実。


 もちろんそのインパクトだけではありません。
 ミズ、惠、三浦の三人がそろってコンプレックスのような屈折した心を抱えており、それを書き出すことが序盤の中心になっています。とくに三浦の簡単には他人に明かせないコンプレックスの描き方は巧み。それが三人の微妙な距離にうまく結び付けられ、さらには物語の核心部分にもしっかり絡められ、全体を構成する太い柱のひとつとなっています。


 ああ、来年の夏までにこのインパクトを忘れなければなりません。夏の風物詩に苦しめられそうな気さえするのです。

2011年10月23日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
サマーサイダー

サマーサイダー

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