橋本紡『葉桜』

 高校生の佳奈は、幼いころから書道教室に通っている。あこがれの継野先生がいるのが通い続ける理由のひとつだ。だが、先生には奥さんがいる。ふたりの姿を見ているだけで、佳奈は幸せな気分になれた。それでも、長い間温めてきた想いを抑え続けることはできないのだった・・・


 静謐という言葉がぴったりあてはまるような作品。それでいて、胸の内に秘めた熱い想いが伝わってきます。
 はじめから届かぬ想いだとわかっていた佳奈の恋。だからこそ、その想いは彼女の心の中で熱く燃え続けていたのかもしれません。
 この熱さというのが、彼女が持つイメージ、すなわち長年書道を続けてきた古風でおしとやかな女性という雰囲気とちょっとしたギャップがあります。この辺が登場人物としての彼女の深みであり、同時に物語の深みでもある気がしました。


 また、継野先生の友人塚本やその弟子津田の存在がほどよいスパイスのようで、しっかり効いていました。それぞれが継野先生や佳奈とは対称的で、だからこそ見えない部分を浮かび上がらせているようでした。
 もうひとり、妹の紗英も佳奈とは対照的な人物。天才的で儚く、破滅的にも見えました。もちろん、それは早熟な天才は17歳で自ら命を絶つという家系に起因しているのですが。出来ることならば、彼女中心の物語も読んでみたい気がします。
 あ、あと津田君のように本当に集中して書道してみたかったなあ。なかなかできないですよ。

2011年10月14日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
葉桜

葉桜

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