北山猛邦『踊るジョーカー』

 推理作家の白瀬白夜は、友人の音野順に仕事場の一室を貸し与えるのと同時に、そこに探偵事務所を開かせた。「名探偵音野順」の誕生である。探偵なんてできないという気弱な音野のもとにはさっそく依頼が集まってくる。それは、密室殺人だったり、毒殺未遂だったり・・・


 北山さんといえば「物理の北山」。今回も物理トリックバリバリなのであります。
 さて、この短編集は「名探偵音野順の事件簿」とついているとおり、友人で作家の白瀬に唆されて(?)探偵事務所を開設した音野の活躍を集めたもの。気弱で引きこもりという彼が、自信なさそうに謎を解くのです。ということで、坂木司さんの「ひきこもり探偵」シリーズを念頭に読んでみました。
●「踊るジョーカー」
 地下シェルターで刺殺された男の周囲にはトランプが散乱し、凶器のナイフもトランプを突き刺していた・・・ええっ! と思わせられるトリック。思わず拍子抜けするようなそれにもうびっくりなのです。バカミス的ですが、ここには目が行かなかったのは確か。
●「時間泥棒」
 次々と盗まれていく時計たち。ほかに盗まれたものはない。ふたり暮らしの姉弟は名探偵音野順に事件を持ちこんだ・・・音野順、侮れないと思わせる一篇。真相への道筋がおもしろく、それだけでも楽しめますが、犯人の動機がうまく隠されていたように見えます。
●「見えないダイイング・メッセージ
 自宅で撲殺された男が残したのはポラロイド写真。そこに金庫を開けるカギは残されているのか・・・こんな形でダイイング・メッセージを残すだろうかという疑問は残るものの、難問と兄の帰国に困惑する音野の姿はコミカルで楽しませてくれますs。もちろん、真相には納得です。
●「毒入りバレンタイン・チョコ」
 研究室でバレンタインチョコを食べた女子大生が青酸中毒で倒れた。残されたチョコからは青酸は検出されないのだが・・・理解しやすいトリックとロジックをうまく融合させた作品。シンプルでありながら完成度の高さが際立ちます。
●「雪だるまが殺しにやってくる」
 雪に包まれた豪邸での婿選び。娘が気に入るゆきだるまを作ることが条件だが、候補のひとりがゆきだるまの前で殺された・・・そんな報酬でいいのか? とヘンな心配をしてしまいました。が、動機も人間的な歪みが見え隠れするもので、そんなことで殺していいのか? と心配になります。


 ざっと通して読むとやはり物理トリックの印象は強いのですが、それだけではないところを見せた短編集でした。ユーモアのあるキャラクター造形はもちろんですが、ロジックや動機もなかなかおもしろく、こだわりの物理トリックともうまく組み合わせられていました。先行する城シリーズとは少々趣を変えたこのシリーズ、次作『密室から黒猫を取り出す方法』も早く読みたいところです。


収録作:「踊るジョーカー」「時間泥棒」「見えないダイイング・メッセージ」「毒入りバレンタイン・チョコ」「雪だるまが殺しにやってくる」

2011年10月9日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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