彩坂美月『夏の王国で目覚めない』

 三島加深。カルト的な人気を持つ作家のファンサイトで、美咲は「架空遊戯」と題するゲームに誘われた。三日間、与えられた指示に従い演じながら謎を解くというこのイベントの賞品は、三島加深の未発表原稿。プライベートを明かすことも外部と連絡をとることもできないこのイベントに、美咲は迷いながらも参加を決意する・・・


 彩坂さんはこれが三作目だと思うのですが、一作ごとに出来映えがよくなっているようです。今回の作品は読みごたえのある非常に楽しい作品でした。
 三島加深という、なにやら幻想的な雰囲気を漂わせる作家にまつわるミステリです。この腑に気が作品の最初から最後まで、ずっと付きまとっていたような気がします。


 ゲーム「架空遊戯」で参加者と読者が追いかけるものが、前半のゲーム上での謎解きから後半のゲームの主催者とその意図へと移行していく流れがなかなかおもしろいものでした。このふたつがゲームの外でしっかり繋がっているのもポイントが高いかな。
 特に後半は緊迫感がありました。主催者から連絡されてくる指示に従って演じつつも、殺人の恐怖に怯える参加者たち。逃げ出したいのに逃げ出せない。そんなスリリングな部分がよかったです。未発表原稿にこだわっていたというよりも、逃げ出したら殺されるというように、ルールに縛られていた部分が大きかったように見えました。参加者たちにとっては切迫した事態ですから、ルールから逸脱できないのも当然なのでしょうか。


 構造としてはかなり複雑で、それだけに多少の弱い部分、穴のような部分も見受けられますが、ほとんど気になりません。物語の世界に引き込む力がかなり強い作品で、とにかく先が気になりました。こんな物語、また読みたいです。

2011年9月15日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
夏の王国で目覚めない (ハヤカワ・ミステリワールド)

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ・ミステリワールド)

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