上月司『レイヤード・サマー』

 柑橘系の香りとともに彼女は現れ、そして去っていった。残されたのは一夏の想い出。花火大会の待ち合わせに向かう涼平が見かけたのは、倒れている銀髪女性の姿だった。時間を越えて未来からやってきたという彼女の目的はなんだろうか?


 一味違うボーイ・ミーツ・ガール・ストーリー。柑橘系の香りが甘酸っぱく感じられる物語でした。
 設定は、タイムトラベルとパラレルワールドを組み合わせたような形。これがなかなか複雑で、少々理解に手間取りました。どちらか一方だけでも理解し難いときもあるのに。
 この設定こそが作品を支える生命線であり、同時に結末に味わえる切なさ、儚さへと誘う原動力です。これなしでは作品の魅力は半減、あるいはそれ以下だったでしょう。


 序盤から中盤にかけては隠された部分がいくらかあるため、思うように理解できないもどかしさのようなものがあります。しかも、庵璃やハルの言い分が食い違い、信頼性に疑問が残る点もそれを助長していて、これをどのように感じるかが評価の分かれ目かもしれません。


 読後に余韻を残す結末も印象的です。あとがきにもあるように、彼らの物語は続いていくのです。どんな風なのでしょう。
 惜しまれるのは、読んだ季節が合わなかったことでしょうか。これを読んだのが夏であったなら! もう少し暑くなったときならば、より切なく感慨深い読書体験となった気がします。

2011年3月18日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
レイヤード・サマー (電撃文庫)

レイヤード・サマー (電撃文庫)

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