初野晴『空想オルガン』
いよいよ普門館への第一歩を踏み出したハルタやチカたち。まずは地区予選から。弱小吹奏楽部はいったいどこまで歩を進めることができるのか・・・
『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』に続くシリーズ第3弾。なんでも「ハルチカシリーズ」という名前がついているそうですが。
●「ジャバウォックの鑑札」
高価な大型犬チベタン・マスティフ。迷い犬となったこの犬に飼い主だと名乗り出たのはふたり。本物は・・・迷い犬の飼い主を断定するだけ。それだけですが、秘められたものが心を打つ一編です。
●「ヴァナキュラー・モダニズム」
ハルタのアパート探し。見つかった物件は間取り図に存在しない五部屋目があり、幽霊が出るという・・・ここまでするか、と思わされる執念。ですが、これもまた心の暖かさが伝わってくる作品です。ちょっと想像できてしまったのが残念でした。
●「十の秘密」
県大会の有力校清新女子高。ギャル集団の彼女たちには十の秘密があった・・・1から10までの並べ方が、ストーリーとうまくかみ合わされ、きれいに消化されています。とくに出だしが効いていました。
●「空想オルガン」
振り込め詐欺組織の一員の男は、上司からの指示もあってある人物を騙しにかかった・・・「ジャバウォックの鑑札」からの流れをきれいに引き継ぎ、まとめあげています。意表を突くラストには驚かされました。
まずは地方予選から始まった普門館への道。それにしたがって進む連作短編集です。
非常におもしろくハルタやチカの活躍と成長を読んだのですが、読み終えて、ミステリ的、謎解き的な部分でのおもしろさが薄く感じられます。シリーズが進むにつれ、その傾向が強くなっている気がします。また、シリーズの既読者向けに見えるのも残念でした。
反面、リーダビリティは高く維持され、さくさくとテンポよく楽しませてくれる仕上がりです。シリーズ既読者であれば読んで損はしないはず。次のステップも楽しみです。
収録作:「ジャバウォックの鑑札」「ヴァナキュラー・モダニズム」「十の秘密」「空想オルガン」
関連作:『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』
- 作者: 初野晴
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/09/01
- メディア: 単行本
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