汀こるもの『完全犯罪研究部』

 ミステリについて語り合う、「推理小説研究部」なんて仮の姿。校内の犯罪や悪事を探り、知識と技術で対抗する。殺人事件だってどんとこい。自慢の暗器でイチコロだ。そんなまじめにふざけたような彼らの名は「完全犯罪研究部」・・・


 これはまたとんでもないメンバーが集まったものだ。
 「THANATOS」シリーズの汀こるものさんの新シリーズ。おそらく「THANATOS」よりもくせのない作品に仕上がっているはず。
 完全犯罪研究部が各々の手にした知識と技術、そして正常とは言いかねる行動力を駆使して自分たちの正義のために暴走する。そんなお話。悪ガキどものお守りをする顧問の女教師もいつしか巻き込まれて、やがては騒動の中心に。そんな物語。早い話、本格ミステリではなく、青春ドタバタ劇。
 くせのない作品、とは書いたものの、今回は犯罪や薬物に関する蘊蓄がふんだんに盛り込まれています。たとえばニトログリセリン、あるいはスリングショット。そういったものが盛り込まれても、過剰にならず程よい分量に収まり、むしろ物語の展開を巧みに補足しています。


 完全犯罪研究部を取り巻く様々な事件。それらをあの手この手で解決していくパターン。ひとつひとつの事件は短いながらも、きっちりかたが付けられています。これが最後まで一気に持っていく勢いにつながっているようです。
 姉を殺され、すっかり姉になりきってしまう妹の杉野二号、メンバーからも謎の人物として扱われる古賀、彼らを教え導く立場にありながら同僚と不倫しているゆりっぺ(由利千早)など、複雑な身の上を抱えた登場人物たちも多く、常識と非常識の間を行ったり来たりしているような人物ばかり。それがなんだか爽快だったり。もっとも、少し中心からはずれた人物になると、書き込みが少ないのかぼやけた印象のキャラになってしまっているのが残念。


 とにかく、作者がやりたい放題好きなように書いたというイメージが浮かんでくる楽しい作品。きっと、汀こるものという作家が与えていた先入観を崩すんじゃないでしょうか。

2010年11月15日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
完全犯罪研究部 (講談社ノベルス)

完全犯罪研究部 (講談社ノベルス)

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