三木笙子『世界記憶コンクール』

 『記憶に自信ある者求む』という広告に応募した質屋の跡取り博一。無事採用され、高い給与を受け取りながら、記憶力の向上に励んでいた。だが、主催者側と連絡が取れなくなった博一は、悪事に関与させられたのではないかと不安を覚え高広に相談したのだ。強い関心を示したのは礼。「赤髪連盟」に似ていると・・・


 帝都探偵絵図シリーズ第二弾。
「世界記憶コンクール」
 記憶力のある者を募った広告で採用された質屋の博一は、高給で記憶の訓練を受けていた。やがて関係者とは連絡が取れなくなり・・・しまった、「赤髪連盟」を読んだ人の方が楽しめそうな一編。親子とはどうあるべきか、ちょっと考えさせられます。
「氷のような女」
 いまだ貴重品の氷。だが、衛生上問題のある悪水氷が出回り、検査が必要になっていた。処分される氷はどこへ・・・高広の義父基博の若き日。氷の行方から思わぬ方向へ広がっていったのがおもしろかったです。タイトルは誰のことか。
「黄金の日々」
 かつて広告図案で一等を得た恵が親しくなったのは、高名な陶芸家唐澤の養子幸生。唐澤のうわ薬の作り方はもはや伝承者がなく・・・真相へとたどりつくきっかけがなかなかおもしろいところでした。高広が謎を解くのとは随分雰囲気が違いますね。これもまた親子がらみ。
「生人形の涙」
 来日したアーリントン卿は、随分以前に日本に滞在したことがあった。取材を試みた高広に、卿は不思議な物語を話し始めた・・・消えた静聴の謎と消えた勲章探し。前者はその真相に、後者は探し方に拍手を送りたくなりました。とくに後者は単純ながらもストーリー全体としっかり絡められていたのがよかったです。


 テーマは親子関係でしょうか。薄いものも厚いものもありますが、どの作品にも親子の情が絡められ、今回の統一されたキーポイントのようでした。これを扱った作品は多々ありますが、ここまでそろえたものはちょっと記憶にありません。
 高広と礼のコンビは、今回は少々おとなしめ。楽しみにしていた読者には残念かも。ただ、その代わりに高広の義父基博の若かりし頃があったり、「点灯人」に登場した森恵が探偵役を務めるなど、お楽しみ要素は盛りだくさん。そのほかの人物もなかなか魅力的で、読者をひきつけてくれます。
 明治の時代背景や文化、風俗、人々の気質といったものを活用して仕上げられた短編集。続編では礼の活躍も期待したいところです。


収録作:「世界記憶コンクール」「氷のような女」「黄金の日々」「生人形の涙」
関連作:『人魚は空に還る

2010年11月13日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
世界記憶コンクール (ミステリ・フロンティア)

世界記憶コンクール (ミステリ・フロンティア)

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