大崎梢『背表紙は歌う』

 明林書房の営業マン・井辻智紀は、前任者吉野の後をついで担当の書店回りをしている。智紀は目の前に立ちはだかる書店や出版にまつわる謎を、同業の営業マン・真柴や仲間の力を借りながら解き明かしていく・・・


 『平台がおまちかね』に続く、〈出版社営業・井辻智紀の業務日誌〉シリーズ第二弾。
「ビターな挑戦者」
 取次で突然暴言を吐かれた井辻くん。相手はどうやら「デビル」とも呼ばれる異端児らしくて・・・デビルという通称とその心情とのギャップが意外で驚きでした。本に関する話は楽しい反面、実情の厳しさを目の当たりにする辛さもありますね。
「新刊ナイト」
 新人白瀬みずきの新作は自伝的でダークな作品。ヒットが期待されるが、かつての同級生が書店員として現れ・・・聞いてしまえばすぐわかることなのに、それを聞くことができないもどかしさ。本当にナイトでした。
「背表紙は歌う」
 ベテランの営業ウーマン久保田の依頼。それは元旦那が経営する書店のキナ臭い噂について調べてほしいというもの・・・このタイトル、上手いなあ。井辻くんと真柴をうまく連携させた、心温まる作品。
「君とぼくの待機会」
 候補作が発表になった東々賞。だが「受賞作はもう決まっている」という噂が流れ、作家たちも各陣営も浮足立った・・・噂の出所はなるほどと唸らされました。最近では待機会やそのあとの祝勝会(あるいは残念会)の様子が作家本人や関係者の発信でわかってきましたが、きっと候補になった時からずっとはらはらそわそわしているのでしょうね。
「プローモーション・クイズ」
 塩原健夫の2作目の帯に書店員からの推薦コメントをもらおうとした井辻くん。ところが、同僚が受け取ったコメントのひとつがなぞなぞのようで・・・ちょこっとあの彼女が登場。さすがと思わせてくれます。書店員さんもゲラが読めるのが大変なのか、特権なのか。


 登場する人物は、みな温かい心の持ち主。善人ばかりなんていうとなんだかあまりよくない評価のようですが、それぞれが心の中に抱えているものがあり、それが登場人物の魅力のひとつになっています。たとえ悪人がいなくても、これはこれでいいと思うのです。
 まさに「本好き」に向けて書かれたような一冊。次もまた楽しみになってきます。


収録作:「ビターな挑戦者」「新刊ナイト」「背表紙は歌う」「君とぼくの待機会」「プローモーション・クイズ」
関連作:『平台がおまちかね

2010年11月8日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
背表紙は歌う (創元クライム・クラブ)

背表紙は歌う (創元クライム・クラブ)

 asin:4488025366 rakuten:book:13920424
【感想拝見】