七河迦南『七つの海を照らす星』

 諸々の事情により家庭で暮らすことができない児童、生徒が寝食を共にする児童養護施設「七海学園」。勤務二年目の春菜は、中二の葉子に係る話に手を焼いていた。葉子には亡くなった問題児の霊がとりついていると噂されているのだ。仕方なく春菜は児童相談所に連絡をしたのだが、やってきた男はそれまでの担当者とはちょっと違った・・・


 第18回鮎川哲也賞受賞作。
 児童養護施設「七海学園」を舞台にした連作短編集です。七海学園で噂される学園七不思議。それらのひとつひとつが、日常の謎に姿を変え、私たちの目の前に現れます。不思議なことには必ず正体があるというスタンスです。
 児童養護施設が舞台であり、登場する子どもたちを取り巻く事情は決して軽くないのですが、それを補うように子供たちの生活がいきいきと描かれています。


 ミステリとしては社会派色の強い日常の謎。問題児の霊が取り付いているだとか、廃屋から聞こえる幽霊のような声だとか、あるいは夏のごく短期間だけいた子どもとか。各編で解かれる謎は決して派手ではないですし、その解決に特別大きな驚きやインパクトがあるというわけではありません。ただ、どの作品も端整で丁寧に書かれた印象があります。小説としての巧さも感じられ、ますます満足。


 途中から執拗に回文を用いており、中にはこのこだわりをしつこく感じる向きもあるでしょうが、こういった部分の遊び心もミステリにはありかなあと。
 また、連作短編集ならではのあの仕掛けも施されています。個々の謎よりも、むしろこの真相の方が驚きは大きかったかもしれません。
 鮎川賞の受賞作としては賛否あるかもしれませんが、非常に楽しみな作家さんが登場したと思っています。続編も早めに読まねば。


収録作:「今は亡き星の光も」「滅びの指輪」「血文字の短冊」「夏期転住」「裏庭」「暗闇の天使」「七つの海を照らす星」

2010年11月7日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ
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