野村美月『“文学少女”と穢名の天使』

 遠子先輩が受験勉強に専念するため文芸部を休部すると言い出した。考えてみれば、受験生なのだから当然のことだ。一抹の寂しさを覚える心葉だったが、ななせの親友水戸夕歌が姿を消してしまったことを知り、ふたりだけで夕歌の行方を追うことに・・・


 受験というイベントが登場することで、否応なく結末が近づいていることを意識させるシリーズ第4弾。遠子先輩の不在というシリーズとしてはやや寂しい状態です。
 『オペラ座の怪人』をモチーフとして取り上げた今回は、なんと言っても琴吹ななせでしょう。これまで「井上なんか」と言い続けてきた彼女の変化と、それに気づかない心葉くんの組み合わせ。なんだかちぐはぐなんだけど、遠子先輩と心葉くんの組み合わせよりもすんなりいきそうな気がするのはなぜでしょうか。ただ、心葉くんは鈍いからねえ。そちら方面がこれからどう推移していくのか。もし美羽が登場なんてことになれば、まだまだひと波乱もふた波乱もありそうで、遠子先輩の卒業までに方が付くのか、いらぬ心配をしてしまいそうです。
 遠子先輩不在ということで、主導的に動いた心葉くんとななせ。このあたりにふたりの成長が見えるのがうれしかったです。いつまでも遠子先輩に頼ってばかりではいられないのですから。もう心葉くんは、頼りない男の子を卒業しなくては。


 おそらく、ここまで読んできたシリーズ4作の中ではもっとも陰鬱な出来事でしょう。やはり今までは遠子先輩がもつ天然の明るさがそういったものを打ち消していたようにも思えますし、同時にこの陰鬱な雰囲気が遠子先輩の不在をより印象づけていたようにも感じられました。
 ところで、井上ミウ名義での出版は検討されていないのでしょうか。


関連作:『“文学少女”と死にたがりの道化』 『“文学少女”と飢え渇く幽霊』『“文学少女”と繋がれた愚者

2010年8月12日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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