野村美月『“文学少女”と繋がれた愚者』

 遠子先輩が図書館で借りてきた一冊の本。その異常を先輩が発見したとき、事件は明らかになった。「ああっ、この本ページが足りないわ!」。何者かが数ページにわたって本を破り、持ち去ったのだ。先輩の手にある本は無残な姿を晒している。はたして、誰が、何のために・・・


 武者小路実篤の『友情』を元ネタとして取り上げたシリーズ第3弾。『友情』ってどんな話だっけ、と考えた末に導きだした答えは、「読んだことがない」でした。『人間失格』『嵐が丘』に続いて未読。ですので、元ネタとの比較は今回も抜きです。というかこのシリーズ、これから読み進めていく中で僕が読んだことがある元ネタは出てくるのだろうか。


 さて、今回のメインになるのはクラスメイトの芥川くん。男子の鑑のようにも思えた彼ですが、こんな難しい過去を抱えていたことが意外でした。
 今回の芥川くんの過去、あるいは今までの心葉くんの過去もそうだったと思うのですが、こういった過去に負ってしまった心の傷を書いたら、野村さんは本当にうまいですね。トラウマというのとはちょっと違うかもしれませんが、何かにつけて囚われ続ける過去とその苦悩を表現するのも、物語に結びつけるのも本当に巧みです。
 ただ、そういったある種の重い部分だけで作られた作品ではありません。たとえば文化祭という晴れの場面もありますし、琴吹さんの相変わらずな場面もあります。もちろん、遠子先輩の見せ場もばっちりです。文化祭で演じたのが『友情』だったわけですが、こういった共同で何かを作り上げる、何かを成し遂げるって、人間関係を近づける作用がありますね。仲良き事は美しき哉。


 ラストに待ち受けている強烈な引きが今後を期待させてくれます。はたして次はどんな展開になるのでしょうか。


関連作:『“文学少女”と死にたがりの道化』 『“文学少女”と飢え渇く幽霊

2010年8月3日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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