川原礫『アクセル・ワールド 1 ―黒雪姫の帰還―』

 学内カースト制度の最底辺にいるいじめられっ子・ハルユキ。学内ローカルネットでも一人黙々とピンクのブタのアバタースカッシュに打ち込んでいた彼だったが、校内一の美しさと気品を持つ《黒雪姫》との出会いがすべてを変えた。《加速世界》における戦士《バーストリンカー》になったのだ・・・


 第15回電撃小説大賞受賞作。これはおもしろかった。
 「ニューロリンカー」なるものを用いて、脳とネットを直接つなぐ近未来の物語。スクールカーストの最底辺でいじめられていたハルユキが、《ブラック・ロータス》を護る《シルバークロウ》として戦う中で成長していく様子が描かれています。


 中心になるには、自らの感覚を加速させ1,000倍の長さに感じさせるというソフト『ブレイン・バースト』です。戦闘アクションものなのでかなりハードなシーンがあることも予想していたのですがそれはハズレ。ゲーム要素もあってか、あまり凄惨なシーンであったり殺伐とした雰囲気だとかいうものは感じませんでした。
 また、レベル9で妥協せず常に上を目指す黒雪姫の生き方もなかなかのもの。自身と《ネガ・ネピュラス》の復活を告げるあの宣言は名シーンでした。


 もうひとつ中心といえるのは黒雪姫とハルユキをはじめとする、リアルとバーチャルでの人間関係。最底辺にいたハルユキと最上級の黒雪姫という、本来なら出会うことのないふたりの関係も微笑ましいのですが、その一方でハルユキと幼なじみのチユリ、そしてタクムとの関係もなかなかに青春していて、こちらも楽しませてくれました。チユリの立ち位置だとか、黒雪姫とハルユキが恋愛関係なのか主従関係なのか、これからが楽しみです。


 「ニューロリンカー」から始まるシステムも巧みに構成され、ネットを使う人ならば入り込みやすい世界になっています。リアルとは違う加速世界で、ハルユキはどんな活躍を見せてくれるのでしょうか。

2010年7月18日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ
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