野村美月『“文学少女”と死にたがりの道化』

 文芸部に舞い込んできた依頼。それは恋文の代筆だった。“文学少女”を名乗る天野遠子は井上心葉に代筆を指示するのだが、依頼には不審な点が見られた。恋文を受け取るはずの片岡愁二という先輩は存在しないのだ・・・


 本編は完結し外伝まで話が広がっている“文学少女”シリーズ。その第一巻です。ついに読みました。
 真っ先に思ったのは、遠子先輩の魅力でもっている作品だということ。とにかく目立つのは彼女のかわいらしさなのです。無邪気で傍若無人で本や原稿を食べてしまう妖怪(?)なのですが、それでいて時として繊細な配慮ができたりするような変わった人。ストーリーが重めですが、置かれた状況に敢然と立ち上がっていく遠子先輩の姿は、読む者を惹きつけます。題材になっている太宰治の『人間失格』を読んでいるともっと楽しめるのかなあ。
 あ、もちろん心葉くんのクラスメート琴吹ななせさんもいいと思いますよ。あのツンデレぶり! これからどんな具合にデレていくのか、これは楽しみです。心葉くんは鈍いから気づいていないけど、明らかに彼女は心葉くんの方を向いていますから。


 見習いたいと思わせたのは、遠子先輩が太宰治を必死におすすめするシーン。「おすすめよ」とか「読んでみて」とか言っているだけなのに、何なのでしょうこの説得力は、この力強さは。自分もこれだけの説得力がある「おすすめ!」って書いてみたいなあ。
 ミステリ風に謎解きの味付けをされたストーリーは、本当に重くそしてつらい真実を連れてきます。でも、そこへ導く推理を遠子先輩が、自分は探偵ではない文学少女だから推理ではなく妄想・想像であると言い切るのも、また彼女らしさが出ていてよかったように思います。

2010年5月22日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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