北森鴻『うさぎ幻化行』

 中部日本エアラインで墜落事故が発生した。その搭乗者名簿には「モガミ ケイイチ」の名が。彼から「うさぎ」と呼ばれていた義妹の美月リツ子は、音響技術者だった彼が残した音源に「うさぎ」と名づけられたフォルダがあることを知った。その音源には不審な点があり、彼の「伝えたかったこと」を知るために、リツ子は調べだした・・・


 1月に急逝した北森さんの遺作。
 環境庁環境省)が選定した「残したい“日本の音風景100選”」に託されたメッセージを探るという、なんとも魅力的な謎があります。予見できない事故死であった圭一が、あらかじめ音に託していたというのが非常に新鮮でした。横浜港の汽笛や水琴窟、SLやまぐち号など、ひとつひとつの謎は音風景の持つ雰囲気が巧みに描写され、そこに人の思惑が絡められています。


 しかしながら、全体を見るとまとまりのなさと結末の唐突さが目立ってしまいます。北森さんのことを考えると、書き急いだのかと想像するほどに。少し強引で、らしくない印象です。前半が音風景に関係する謎を追うものであったのに対し、後半は圭一の行動に関係する謎解きともいうべきものでしたが、その組み合わせもイマイチでした。ミステリとして放置された部分が多かった気がします。
 また、圭一という人物に関しては理解に苦しむ部分が目に付き、不自然な印象は拭えませんでした。


 「生きているのは死ぬまでの暇つぶし」・・・そんな言葉が作中人物の人生観として紹介されます。これが北森さん自身の人生観だったのかわかりませんが、きっと「死」を強く意識されていたのでしょう、「生」と「死」に関する部分がやたらと気になる作品でした。
 今後に期待、そんな言葉を書けないのは非常に残念ですが、これからは未読の作品で楽しませていただきたいと思います。

2010年5月3日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ
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starラストはあれで良かったのか?
star“うさぎ”を捜す旅が交差する連作ミステリの妙。北森鴻の遺作です。

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