中田永一『吉祥寺の朝日奈くん』

 喫茶店に勤める女性、山田真野。彼女とは痴話げんかの乱闘騒ぎに巻き込まれたことをきっかけに言葉を交わし、献血ルームで再開した。だが、誘いの言葉に返されたのは左手の薬指に輝く指輪。彼女は、結婚し子供もいるのだ。それを承知したうえで、朝日奈くんは彼女との距離を狭めてゆく・・・


 『百瀬、こっちを向いて』で話題になった中田さんの第二作。今回も短編集です。
「交換日記はじめました!」
 圭太と始めた交換日記。ところが、別の人がそこに加わってきたことから、交換日記は思わぬ方向へ・・・今でもあるんですねえ、交換日記。他人が読むという前提でここまで自分のことをつまびらかに書くものかどうか若干疑問に思いましたが、展開と真相のおもしろくてよかったです。
「ラクガキをめぐる冒険」
 忘れられない初恋の同級生、遠山真之介。卒業後連絡が取れない彼と、彼にまつわるエピソード・・・とても細かい伏線が後から効いてきます。何かをともに成し遂げるということ、あるいはふたりだけの秘密というのは恋への近道ですよね。
「三角形はこわさないでおく」
 親友になったツトムが恋した小山内さん。いつしか廉太郎も彼女に惹かれてゆく・・・ツトムと廉太郎の友情もいいのですが、なんといっても今回は小山内さん。不器用な三人がこのあとも三角形を壊さずにいけたのでしょうか。
「うるさいおなか」
 おなかが発した音に気づかれたことで学生服のボタンをもらい損ねたこともある私は、極端に耳がいい春日井君に気づかれ・・・「させるか!」そりゃそうでしょう。何にせよ、悩み事を話せる人がいるというのはいいことです。
「吉祥寺の朝日奈くん」
 喫茶店で言葉を交わし、献血ルームでも出会った彼女。だが、彼女は結婚していて子供もいる・・・単純な不倫ものかと思えば、まったく違う展開に驚き。ただ、最後ここまで書くべきだったか判断に迷うところ。


 今回もミステリ仕立てな部分が目立つ短編集。特に気に入ったのは「ラクガキをめぐる冒険」「吉祥寺の朝日奈くん」の二編。どちらも終盤で明らかになる真相には驚きを隠せません。そこに至るまでの伏線の配置も見事。きっと普通に探偵もののミステリなどを書いてもおもしろいものを書かれるのではないでしょうか。
 また、視点人物を男性に置くことでヒロインが見えてくる「三角形はこわさないでおく」も好きですね。どれだけ親しくなっても変わらない小山内さんの硬質な口調がまた印象的でした。
 これから先、この人はどんな方向へ進むのでしょうか。できることなら、今までのような淡く、そしてかわいらしい恋愛をいつまでも書き続けてほしいものです。


収録作:「交換日記はじめました!」「ラクガキをめぐる冒険」「三角形はこわさないでおく」「うるさいおなか」「吉祥寺の朝日奈くん」

2010年2月18日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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吉祥寺の朝日奈くん
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