伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』

 「僕の孤独が魚だとしたら・・・」そんなフレーズから始まる小説。この小説に惹かれたある男は、自らの売れないバンドの最後のレコーディング曲の歌詞として、この小説を使った。この小説を思い出したある男は、山道を運転中に・・・(「フィッシュストーリー」


 4編を収録した短編集。それぞれ独立しているものの、『重力ピエロ』に登場した黒沢の印象が強く残りました。
「動物園のエンジン」
 夜の動物園。シンリンオオカミの檻の前で寝転がる元職員は「動物園のエンジン」らしい・・・話の繋がり方、転がし方が、まるで河原崎さんの駄洒落のよう。彼らのその後の人生も、もしかしたら駄洒落なのかもしれない。
「サクリファイス」
 山里深くにある小暮村。人探しで訪れたその村には、生贄の風習が残っているという・・・初出は「別冊 東北学」。なんとなくそれが窺い知れる作品。小暮村の持つイメージと、終盤の展開とのギャップがなんとも言えません。
「フィッシュストーリー」
 あるバンドが残した曲。その曲には不自然な無音部分があった・・・時を越えて繋がりあう、ある小説をめぐる物語たち。30数年前、20数年前、現在、そして10年後と物語が大きくなっていくのもおもしろい。
「ポテチ」
 空き巣に入った部屋は野球選手の部屋だった。そこにかかってきた電話に出てしまって・・・4編の中では、もっとも登場人物がいきいきと動いていた印象。中でも今村の母はバツグン。最後もきれいにまとまっていて、後味もいいのです。


 残念だったのは、『重力ピエロ』における黒沢を名前しか覚えていなかったことでしょうか。これではさすがにリンクしている意味がありません。もちろん、リンクしている意味がないから楽しめないということはありません。相変わらず、いつもの伊坂さんらしい作品集だと感じました。
 ただ、全体にいまひとつインパクトにかけて、つかみどころがなかったようにも思いました。なにかぴんと来ないというべきでしょうか。


収録作:「動物園のエンジン」「サクリファイス」「フィッシュストーリー」「ポテチ」
関連作:『重力ピエロ

2009年12月24日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ
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starグライダーのように
star2010年最初のレビュー
star表題作「フィッシュストーリー」と「ポテチ」が好きですね。
starsカルビーに感謝
stars表題作は最高

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