須賀しのぶ『芙蓉千里』

 フミは大陸へ渡った。吉原のお職だったという母に憧れ大陸一の女郎を夢みたフミは、12歳で人買いについて行ったのだ。未だ幼いフミは、哈爾濱の女郎屋「酔芙蓉」でとりあえず下働きからはじめることに。幼き頃から辻芸人としての生活の糧であった角兵衛獅子が、彼女の運命を左右する。明治末期のこと・・・


 ガールズ大河小説! 適切かつ巧みな表現です。まだはじまりの部分だけなのかもしれませんが、これはとてもおもしろい作品でした。続きが読みたくなります。


 舞台は哈爾濱(ハルビン)にある女郎屋「酔芙蓉」。客を含めた「酔芙蓉」を取り巻く人々の人間模様が描かれます。その中でもメインになるのは、女郎になりたいフミとなりたくないタエ。異なる思いを持つふたりの少女の友情が素晴らしい。互いの夢のために協力するあたりもほほえましいのですが、なんといってもタエの水揚げの日のエピソードでしょう。いざとなったときのタエの度胸とお姉さんぶりには感心するばかり。
 一方のフミは気持ちの強さがよく出ていて、中でも黒谷に対して啖呵を切ったシーンはもっとも彼女らしいような気がします。もちろん、躍動感あふれる舞もよかったです。


 さて、フミとタエが互いの夢を追う「酔芙蓉」でのストーリーとともに、哈爾濱に渡った直後に出会った山村との物語ももうひとつの柱。果たしてふたりは再会するのか否かというところ。最終的にこういう結果でよかったのではないでしょうか。


 あえて残念だったところを挙げるならば、中間がすっぽりと抜け落ちているところ。きっとフミやタエにとって欠かせない出来事がたくさんあったはず。その辺も読めたらよかったかなあ。


 とにかく、満足させてくれるおもしろさのガールズ大河小説。まだまだ先に続くはずなので早く読みたいです。

2009年12月3日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ
芙蓉千里
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