樋口有介『捨て猫という名前の猫』

 三軒茶屋の雑居ビルからひとりの少女が飛び降りた。それは単なる飛び降り自殺のはずだった。だが、月刊EYES編集部への一本の電話が。「秋川瑠璃は自殺じゃない。そのことを柚木草平に調べさせろ」。指名された柚木草平は、美少女の突然の死に疑問を抱き、彼女の足跡をたどるのだった・・・


 永遠の38歳・柚木草平、ついに携帯を使う。
 のっけから事件とは別のことですが、これは今回一作通して特徴的に描かれていることです。彼は年をとらないから、いつかこんな日が来てもおかしくはありません。ただ、その番号を別居中の妻知子や娘の加奈子、そして担当編集者の小高直海にも教えないのです。すなわち教えたら厄介ごとになりそうな人物には、携帯を持ったことも秘密。この辺に、柚木草平の人となりが表れている気がしました。


 さて、本題の事件ですが、これがなかなか陰鬱で重い内容。柚木の軽妙な会話もどこかへ吹っ飛んでしまいそうなくらいに。このシリーズは柚木が行く先々で様々な女性と出会うのが恒例で、今回も例外ではありません。そこには、女性は男性には理解できないという考え方があるようです。そういった意味では、今回出会った女性のひとりは柚木にとって本当に理解しがたい人物ではないでしょうか。


 考えるほどに悲しい気分になる事件ではありますが、そんな気分を打ち消してしまうようなラスト。まったく、どこで知り得たのか。これだから女性は不思議でわからない。


関連作:『彼女はたぶん魔法を使う』『初恋よ、さよならのキスをしよう』『探偵は今夜も憂鬱』『誰もわたしを愛さない』『刺青白書』『夢の終わりとそのつづき』『不良少女

2009年11月14日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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