高城高『函館水上警察』

 米国放浪の経験を持つ五条文也は、帰国後警視庁でサーベルの指導に当たり、後に函館水上警察署の次席となった。明治二十四年の函館は外国船が数多く来航する港町として栄え、同時にそれは外国人がらみのトラブルが頻発することをも意味している。五条をはじめとする個性豊かな水上署員たちは事件解決のために奔走する・・・


 昭和三十年に「X橋付近」でデビューした幻のハードボイルド作家、およそ四十年ぶりの新作短編集。
 収録されているのは、英国のラッコ船アークティック号の水夫長銃殺の謎を追う「密猟船アークテック号」、英国東洋艦隊の水兵の恋と荷役業者たちの争いの「水兵の純情」、船上で開帳される賭場へ五条たちが踏み込む「巴港兎会始末」、臨検の口実を得た五条たちが待つ函館へアークティック号が戻ってくる「スクーネル船上の決闘」という水上警察署シリーズの四作に、若き森林太郎(鴎外)の函館滞在時の活躍「坂の上の対話――又は『後北游日乗』補遺」を加えた計五作。


 どの物語を読んでも、登場人物のキャラが立っています。五条をはじめとする水上警察署員たちはもちろんですが、特に五条と同じ下宿人で函館税関の監視課長の勝俣、龍動屋支配人の“鹿鳴館”塙藤緒は強く印象に残りました。
 また、明治中期の函館の国際都市としての姿や、登場する船が丁寧に描写されているのも注目したいところ。スクーナー型帆船や弁才船は図版入りというのもうれしいですね。街の様子にも単純な異国情緒だけでなく、ハイカラさと江戸時代の名残のような古めかしさの両方があります。こういった描写や史実を元にしたリアリティが、登場人物たちの生き生きとした造形にも一役買っているのではないでしょうか。


 シリーズ外の一作は、森鴎外の函館訪問という歴史の穴埋めのようなもの。詳細がよくわからないこの滞在が、想像力からひとつの冒険に仕立てられています。こちらも史実が活用されただけでなく、鴎外という歴史上の人物が活躍することで、また一味違った味わいを楽しめる作品となっています。


収録作:「密猟船アークテック号」「水兵の純情」「巴港兎会始末」「スクーネル船上の決闘」「坂の上の対話――又は『後北游日乗』補遺」

2009年11月13日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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