森谷明子『矢上教授の午後』

 夏休み、老朽化した研究棟は、突然の豪雨と雷による停電に見舞われた。エレベーターが止まった上に、なぜか非常ドアも開かない。非常事態に慌てる面々の前には、なんと見知らぬ男性の死体が。ミステリ好きの講師・矢上教授は、残された教授や学生たちを相手に捜査に乗り出した・・・


 読み出したときは、まさかこんな展開になるとは思いもしませんでした。てっきり、紅茶でも飲みながら学生たちが持ってくる日常の謎でも解き明かすような安楽椅子探偵ものを勝手に想像していたのです。


 生物総合学部にいる日本古典文学の講師というあたりで、矢上教授には場違い感が満載。ですが、ただミステリが好きというだけなのに、論理的にまわりの理系人間たちを納得させてしまいます。これは文系人間には爽快かもしれません。
 閉じ込められた場所がもうほとんど使われなくなった研究棟というのも、またちょうどいいところでした。見捨てられたように誰も来ないし管理も杜撰、それでいて後ろめたいところがある人物は集まってくるということで、いろいろな要素を持ち込むことができ、ミステリの舞台としては格好の場所だったのでは。
 もっとも、矢上教授を慕い研究室に出入りする御牧咲が、いかにも意味ありげに登場する割にはあまり出番がなく、ちょっと拍子抜け。もちろん、ある程度の役割は担っているのですが、もっと活かせなかったかなあと疑問です。


 かなり細かく分けられた章立ては、好き嫌いが分かれるかもしれません。あまりの細かさに最初は面食らいましたが、場面展開でキッチリきれるので、慣れれば読みやすく感じました。

2009年11月11日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ
矢上教授の午後
矢上教授の午後森谷明子
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