相沢沙呼『午前零時のサンドリヨン』

 須川君が心を寄せるクラスメイト・酉乃初。彼女はレストラン・バー「サンドリヨン」でマジックを披露する凄腕のマジシャンだった。須川君は学校では愛想がなく心を閉ざしがちな彼女とともに、校内で起こる不思議な出来事の謎を解こうとする。はたして、須川君は彼女を謎解きへと導くことができるのか、そして彼女の心は・・・


 第19回鮎川哲也賞受賞作。
「空回りトライアンフ」
 図書室に置かれた移動可能な小型書架。中央の一冊を残して雑誌がすべて裏側を見せているのはなぜ・・・書架の謎は単純ながら、その後の処理がきれいにまとめられています。振り返ると、須川君はこの話のときがいちばん積極的だったかも。
「胸中カード・スタッブ」
 「fff」、そんな形に音楽室の机の上を傷つけ、何者かが楽譜を盗んで行った・・・決して複雑なミステリではないけれど、伏線もしっかりと張られています。どんなに傷ついても、好きなことは、手放せない。そんな言葉を忘れずにいたいものです。
「あてにならないプレディクタ」
 落し物の手帳には、発表前の試験成績が書き込まれていた。名乗り出たのは占いがよく当たる飯倉静香・・・なんとも衝撃的な結末。それにしても、マジックのタネとちょっとした不思議な出来事の仕組みなんて紙一重なんでしょうね。
「あなたのためのワイルド・カード」
 自殺した生徒の幽霊なのか、学校の公式サイトの掲示板に彼女の名前で書き込みが・・・「あの人」の名前が告げられた瞬間、これこそがこの作品集の最大の山場かな。きれいにまとめてくれました。


 どうして謎は解かれなければならないのか、という根本的な命題にからめた連作短編集。
 殺人や誘拐といった刑事事件であれば、その犯人逮捕に警察組織や名探偵が乗り出すのは半ば必然。だが、日常の不思議の謎を解くことにどれだけの意味があるのか。
 全編を通して問いかけられるこの命題を、奇術と絡めてとりあげています。「不思議は不思議のまま、楽しんでおいた方ががいい」という酉乃の考えは、奇術だけではなくミステリにも日常のちょっとしたことにも当てはまりえるものです。知らないほうがよかった、なんてことはきっとたくさん。


 ミステリとしての謎解きは残念ながら強いものではありません。ですが、この物語はむしろ青春小説。須川君がどうやって酉乃の心を自分の方へ向けるかというところに力が入れられています。その様は、まるで御主人様に尻尾を降る忠犬。八反丸芹華さんの太腿にドキドキしながらも、須川君の心はいつも酉乃の方を向いているのです。


収録作:「空回りトライアンフ」「胸中カード・スタッブ」「あてにならないプレディクタ」「あなたのためのワイルド・カード」

2009年11月8日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ
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