道尾秀介『龍神の雨』

 降りしきる雨が運命を変えた。二軒の血の繋がらない家族の運命を。あの時あれを見なければ、あんなことを考えなければ、悲劇は起きなかったのに。添木田蓮が義父を殺害するために湯沸器をつけっぱなしにしてでかけたその日は、巨大台風がやってきた・・・


 またしてもやられた、というのが本音。道尾さんの作品だけに、どこかで仕掛けられることはわかっています。それなのに、やっぱり引っかかってしまいます。もっとも、こちらも仕掛けを暴くことよりも仕掛けられることが喜び。


 ただ、今回はいつもに比べるとその衝撃は若干小さいような気がしました。想定の範囲だったわけではありませんが、どうしてでしょうか。
 ひとつ考えたことは、この作品の中心に据えられたのはこういった騙しのテクニックではなく、細かな人物描写、心理描写ではないのかということ。ともすれば小手先だけになりがちなものに頼るのではなく、より読み応えのあるものにしようという試み。そうだとしたら、これはひとつの成功を収めたといってもいいでしょう。これは以前からのことかもしれませんが、特にこどもの心理描写が巧みで、事件に振り回される圭介は見事に表現されていました。


 道尾さんらしく、世界はやはり暗くもやもやしています。海水浴の場面であっても、夕立直前の黒い雲が立ち込めているかのよう。たとえ最後に雲間から陽光が差し込もうと、ジメッとした作品であったことは間違いありません。

2009年11月1日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
龍神の雨
龍神の雨道尾秀介
新潮社 2009-05
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おすすめ平均 star
star読み始め10ページを越えたら一気に面白くなる、はず。
star手堅いかな。
star引き込まれてしまう話展開
starsそれぞれの視点
stars環境は特殊なのに性格が普通すぎる

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