杉井光『さよならピアノソナタ encore pieces』
完結からおよそ一年。あのフェケテリコのメンバーたちが帰ってくる。彼女たちのあの頃は? 彼らの未来は? あの人たちは今? いったん幕が下りた後にふたたび始まるアンコールの物語たち・・・
クロウタドリふたたび。『encore pieces』のタイトルどおり、過去から未来まで物語の隙間を埋めていくアンコール作品集です。
●「“sonate pour deux”」
父と同じく業界ゴロになっていたナオは、ある依頼を受けた。それは父たちの師匠が残した楽譜の調査・・・ナオと真冬の物語。既に立派な大人なのですが、やっぱりナオは鈍感でした。家捜しのシーンにあの《心からの願いの百貨店》を想像してしまいました。
●「翼に名前がないなら」
ふたりだけになったフェケテリコ。そのフェケテリコが新しいベーシストのオーディションをするという・・・合格したのは女子大生の橘花。彼女のがんばりが、すっかりビッグになったフェケテリコを映し出すとともに、残ったふたりにとってのナオの存在をも映し出します。
●「ステレオフォニックの恋」
日米間を行き来しながら、ナオと真冬の間で揺れるユーリ。本当の気持ちは・・・ステレオフォニックとは言いえて妙。
●「最後のインタビュー」
ナオに向かって響子は語りだした。あの黒いレスポールと最高のベーシストにまつわる昔話を・・・響子が語ったのは、あの黒いレスポールと革命の始まり。彼女がひとりで何でもできると思っていたというのもちょっと驚きですが、確かにこれは一大転機。オーナーがとてもいい感じの人物でした。
●「だれも寝てはならぬ」
ナオからの電話は結婚を告げるものだった。さて、父親としてどうしたものか・・・真夜中の三本の電話。このドタバタ感はやはり哲朗だからこそ。エビチリではこうはいかない。掌編ながら存在感がある作品。
ないだろうとは思っていたのですが、もしかしたらが現実になった、まさかのアンコール短編集。登場人物ひとりひとりに光が当てられたソロメドレーといったところでしょうか。それでいて、しっかりと空白を埋めているところがにくいですね。
読み出してすぐに、一年弱という刊行の空白と数年という物語の空白がすっと埋まっていくようでした。それだけこの物語と登場する人物たちが自分に浸透していたということでしょうか。
どれも恋と革命と音楽がたっぷりつまった感じ。看板に偽りはありません。これで本当に書ききったのではないでしょうか。もう本当に次はないでしょう。惜しいとは思うものの、これ以上の終わり方もまたない気がします。
収録作:「“sonate pour deux”」「翼に名前がないなら」「ステレオフォニックの恋」「最後のインタビュー」「だれも寝てはならぬ」
関連作:『さよならピアノソナタ』『さよならピアノソナタ2』『さよならピアノソナタ3』『さよならピアノソナタ4』
さよならピアノソナタ―encore pieces (電撃文庫) | |
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