雫井脩介『栄光一途』

 オリンピックの代表選考会目前、全柔連の上層部は揺れていた。国際柔道連盟に代表の有力候補の誰かが禁止薬物を使用しているという告発があったのだ。その調査を任せられたのが望月篠子。元日本代表の彼女は、二年間のフランス留学から帰国してコーチとして戻ったばかりだった。タイムリミットは三週間・・・


 第4回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した、雫井さんのデビュー作。柔道という自分に身近な題材ということもあり、とても楽しく読みました。試合のシーンなんて本当にいきいきとしていて。
 法による薬物の線引きに関するドーピング問題だけでなく、武道とスポーツの関係にも踏み込んだ作品。欲を言えばやや踏み込み具合が甘かったかな。こういったプラスアルファの部分の出来がいいと、全体として見てもより優れた作品に見えることでしょう。


 順序が逆になりましたが、メインはミステリ。篠子が課されたドーピング疑惑の調査です。篠子は指導を受け持つ角田志織、親友の佐々木深紅とその後輩堀内絵津子で探偵団のようなチームを組むのですが、この四人がそれぞれキャラがはっきりしていておもしろかったです。特に篠子と深紅の掛け合い。この四人で次の事件も、とも思ったのですが。
 疑惑はふたりの容疑者がそれぞれに少しずつあやしく、なかなか尻尾をつかませずに引っ張っていきます。やや都合よく展開しているものの、篠子たちが悩みながら少しずつ進む姿は、読者を楽しませてくれます。いや、本当に楽しませてくれるのはまったく悩んでいるように見えない深紅かも。


 雫井さんの作品を読むのは3作目ですが、これが一番はまったかもしれません。『白銀を踏み荒らせ [ 雫井脩介 ]』にも篠子や深紅が登場するようなので、そちらも読みたいと思います。

2009年10月21日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
栄光一途 (新潮ミステリー倶楽部)
栄光一途 (新潮ミステリー倶楽部)雫井脩介
新潮社 2000-01
売り上げランキング : 732743

おすすめ平均 star
starスポーツ界サスペンス物の秀作
starデビュー作

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
asin:410602764X