豊島ミホ『夏が僕を抱く』
小学校を卒業し、中学校に入学したとたん、毬男は不良になってしまった。「私、不良になることにした」。宣言した菊南は、スカートを短くし、髪の毛も染めた。毬男の隣にいるのは、あの子じゃなく今までどおり私・・・(「変身少女」)
幼なじみをテーマとした短編集。
●「変身少女」
毬男が不良になった。まだ入学式から一ヶ月も経たないのに。だったら私も不良になるしかない・・・似合ってもいないのに「自分も不良にならなきゃ」と思い込むあたりがかわいらしい。
●「らくだとモノレール」
同じニュータウンに住むらくだは一歳年上。いるかは学校を抜け出した日、上の階から音を聞いた。そこはらくだのベッド・・・自分と違うところへ行ってしまう、という事実は、相手を再認識するきっかけとして最適な機会なのでしょう。
●「あさなぎ」
お姉ちゃんが六年生のときキスするのを見た。相手は石川研吾くん。明日、私は彼とお見合いをする・・・これはけっこうきついなあ。いろいろな感情が相まって、先行きが心配でならない関係です。
●「遠回りもまだ途中」
地元の大学に入ったあたしは、クリスマスを将チンと過ごす。けれど、浪人中の岬が必要としているのはあたし・・・岬の「いい奴度」が実に高い。将チンとの対比が効いています。
●「夏が僕を抱く」
渋谷で従姉のミーちゃんと偶然再会した。それ以来、ハネはバンドもほったらかしで会い続けている・・・唯一の男性視点。二人がそれぞれ持っている他人に対する引け目を慰めあう形になっているだけに痛々しい。
●「ストロベリー・ホープ」
東京から護が帰ってきた。私とセットにされていた彼は、とても「いい男子」だった。私が会いに行ったのは、きっと好奇心から・・・誰しも人間は弱い部分を抱えています。戻れる場所、囲んでくれる人がいるということがどれだけ大切なことか。
幼なじみとの恋。しかも、いったん間が開いた幼なじみとの。むろん、幼い頃とは意識することが違うし、その頃の距離が近いだけに余計に難しいのではないでしょうか。遠くて近いのか、近くて遠いのか。
限定されたテーマながら、年齢や境遇に違いをつけることで、思いの外バラエティに富んだ内容になっていました。すこし前に読んだ『初恋素描帖』よりもこっちのほうが好き。
収録作:「変身少女」「らくだとモノレール」「あさなぎ」「遠回りもまだ途中」「夏が僕を抱く」「ストロベリー・ホープ」
【感想拝見】- まったり読書日記さま(2009.10.20追加)
夏が僕を抱く | |
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