真保裕一『アマルフィ』

 外務大臣の訪伊に備え、ローマの日本大使館はあわただしく動いていた。黒田も邦人保護担当特別領事としてローマに呼ばれ、その一翼を担うことに。だが、バカンスにやってきた日本人少女が誘拐されたことで状況は一変する。テロ対策を指示する大使館を無視し、黒田は職務である邦人保護に走る・・・


 フジテレビの開局50周年記念映画の原作。あらかじめ映画になることを前提に書かれているそうです。それが先入観としてあったためか、全体がいかにも映画向けという気がしてしまいました。舞台となったアマルフィ世界遺産となっている海岸はスクリーンに映えるだろうなとか、このシーンは派手だろうなとか。
 また、全体的に人物の表現が薄いように感じました。俳優の細かい演技によって表現するような部分の書き込みです。だから、登場人物たちはなんとなくプロットの上に置かれた駒のよう。特にこちら側の人たちはあちら側の人たちに誘導されているだけになおさら。


 そういった点に目をつぶれば、なかなかおもしろいエンターテインメント。その展開にすこし違和感がある誘拐事件。黒田は大使館員を中心とした事なかれ主義の公務員たちに背を向け、己の信じる道を突き進みます。組織からはずれた男がひとり正義のために戦うのは典型的なヒーローの形。おもしろいのは当然かもしれません。これで黒田がもう少し翻弄されたり、迷ったり、あるいは失敗するようであればもっとよかったかも。少しスーパーマン過ぎる気がしました。


 舞台が海外であったり、全体に派手だったりはしますが、何だか初期の小役人シリーズを思い出しました。またああいう作品も読みたいです。

2009年9月29日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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