彩坂美月『未成年儀式』
夏休みが始まり、女子寮には5人の生徒だけが残った。だが、個性的な5人は互いに譲らず、打ち解けることを知らない。そこを襲った大地震。女子寮の中はめちゃめちゃに壊され、救援を呼ぶ電話も繋がらない。さらに外から耳を疑うような知らせがもたらされた・・・
第7回富士見ヤングミステリー大賞準入選作。
大地震で殺人犯で、しかも幽霊話まで登場。盛りだくさんです。でも、その中でどれが中心なのか、どれを本当に書きたかったのかというのが見えてきません。ある新人賞での選評にあったという「作者自身、何を書いていいのか迷っているように見える」という言葉がいまだに生きているように感じました。
登場人物の数も多く、それぞれが何かしらの問題を抱えているのですが、その問題がこのパニックにおいてどのように解決されたのかということがあまり書き込まれていません。抱えていた問題を互いの対立のタネや行動の原理として活用したものの、結果としてどこかへ置き忘れただけになってしまっています。さまざまな出来事を盛り込むよりも、こういったことをより濃密に書き込むほうが完成度が高い作品になった気がします。
たとえば、大地震と殺人犯を同時に持ってくることで、恐怖や混乱、緊迫感の上積みはできるかもしれません。でも、同じようなものをふたつで複雑にして上積みするよりは、大地震なら大地震ひとつを深く表現することで恐怖や混乱の上積みするほうがよかったように思えました。
厳しい書き方だったかもしれませんが、作品自体はなかなかおもしろいものでした。特に【彼女】の使い方は巧みでした。
未成年儀式 (Style‐F) | |
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