谷原秋桜子『手焼き煎餅の密室』

 美波の家の隣には洋館があり、水島のじいちゃんが住んでいる。じいちゃんとはいうものの、本当の祖父ではない。ところがこの水島のじいちゃん、美波や修矢の周りで起こる不思議な出来事の謎を立ちどころに解いてしまうのだった・・・


 美波の事件簿シリーズ、最新作は前日譚。美波と修矢がまだ出会う前の様々な事件を、水島のじいちゃんが解決してくれます。
「旧体育館の幽霊」
 旧体育館には幽霊が出る? 修矢は麻耶先輩とともに幽霊捜しに出かけた・・・微妙にわかりにくい伏線があって、気付いたときに思わず膝を打ちました。修矢の推理も十分おもしろかったです。
「手焼き煎餅の密室」
 落語家の家で美波が見つけた男の子は、煎餅を粉々に踏み潰して逃げ去った・・・直海の推理が引っかかった部分が意外な展開を見せてくれました。しかし、これを密室と呼ぶのは少々大げさでは。
「回る寿司」
 回転寿司で同席した紳士は、なぜかシャリを残しネタだけを食べ続けた・・・おかしな食べ方をした紳士はふたり。トンビはもちろん、ポンチョの謎も驚きでした。単純ですが、ズバリと切り込んだだけに鮮やかに感じます。
「熊の面、翁の面」
 美術室に置かれた曰くつきの能面。夜に忍び込むとガラスケースは割れており、能面はまるで生きているかのように動き出した・・・思いもよらないところに推理の分かれ道がありました。
「そして、もう一人」
 これほどおもしろく、知的興奮を呼び覚ましてくれるお話は、久しぶりでございました・・・そうか、あの人がいなかったのか! と、まったく気付いていなかった自分がすこし恥ずかしくなります。なんとなく残っていたもやもやを打ち消すだけでなく、しっかりオチも付けてくれました。


 全体に、修矢や美波が持ち込んだ推理に対して、水島のじいちゃんがそれを見直して別の推理をするという形。この推理の上をいく推理というパターンが短編に深みを持たせているように感じました。
 本編では少しひねくれた面を見せている修矢ですが、この作品集ではそんなこともなく、実に素直な高校生です。この後の数年で何があったのでしょう。その辺もあとで明らかになるのかな。


収録作:「旧体育館の幽霊」「回る寿司」「熊の面、翁の面」「手焼き煎餅の密室」「そして、もう一人」
関連作:『天使が開けた密室』『龍の館の秘密』『砂の城の殺人

2009年9月13日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
手焼き煎餅の密室 (創元推理文庫)
手焼き煎餅の密室 (創元推理文庫)谷原秋桜子
東京創元社 2009-08-30
売り上げランキング : 29171


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
asin:4488466044 rakuten:book:13264427