柳広司『ジョーカー・ゲーム』
スパイ養成学校「D機関」。帝国陸軍とはまったく異なる思想の下におかれた彼らは、「魔王」結城中佐の教えに従い、見えない存在として世界中で暗躍していく。ある者は東京、ある者は横浜、またある者は上海、ロンドンで・・・
第62回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門、第26回吉川英治文学新人賞を受賞し、昨年の「このミステリーがすごい!」で第2位だったスパイものの短編集。
●「ジョーカー・ゲーム」
暗号表を盗み取ったスパイ容疑で親日家ゴードンの家に踏み込んだ佐久間と憲兵隊。だが、困惑しながらもゴードンの顔には笑みが・・・佐久間の視点から見た「D機関」の恐ろしさが際立っている作品。読んでいるときは何でこのタイトルにしたのか釈然としないものがありましたが、振り返るとスパイそのもののような気がしてきました。
●「幽霊(ゴースト)」
蒲生次郎が英国総領事グラハムのチェスの相手を務め始めて一週間。彼の目的はグラハムと爆弾テロ計画との関連調査だった・・・ストレートに見せてくれるスパイ小説。おそらく一般的なスパイ小説といえばこの物語のようなものをイメージするのでしょうが、この作品集の中ではちょっと異質かもしれません。
●「ロビンソン」
新米外交官のあるまじき失敗によって連行された伊沢。彼を尋問するのは英国諜報機関の元締めマークス中佐。スパイ対スパイ・・・非常に緊迫感を持たせた作品。ただし、ここまでの活躍ぶりから、どうなるのだろうという感覚よりもどうしてくれるのだろうという感覚のほうが強かったです。
●「魔都」
上海に赴任して三ヵ月ほどの本間憲兵軍曹。彼が及川大尉から内通者調査の密命を受けたとき、近くの共同疎開にある及川の住居が爆破された・・・このシチュエーションだからこそ、でしょうか。まさに魔都という表現がふさわしい作品でした。
●「XX(ダブルクロス)」
ドイツからの特派員シュナイダー。彼は独ソの二重スパイだった。飛崎はその証拠を押さえなければならなかったが・・・最後の一言がなんとも印象的。思っても見ない言葉でした。
おそらくは陸軍中野学校をモデルにしたであろうスパイ養成学校「D機関」。中野学校やその出身者の活躍がどのようなものだったのか、この物語との比較はできないのですが、きっとこの物語のほうがスマートなのではないかという印象があります。いや、やはりスタイリッシュのほうが適切かも。リアリティがないように見えてしまったのはそのためでしょうか。それとも「D機関」の面々が超人的に優秀すぎるのでしょうか。いずれにせよ、この時代が持つ暗さのようなものはあまり感じられません。
五つの短編にはそれぞれ中心になる人物がいて、いろいろな形で「D機関」との関係があります。しかしながら、読むたびに強く感じられるのが「魔王」結城中佐の存在。すでにスパイを引退した身であり表舞台に出ることはありませんが、かえって冷徹かつ繊細な結城中佐の動きや腹積りが浮き上がってくるかのようでした。
収録作:「ジョーカー・ゲーム」「幽霊(ゴースト)」「ロビンソン」「魔都」「XX(ダブルクロス)」
【感想拝見】- ◆小耳書房◆さま(2009.10.20追加)
ジョーカー・ゲーム | |
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