似鳥鶏『さよならの次にくる〈新学期編〉』
三年生だった伊神さんが卒業。唯一の美術部員である葉山くんも進級し、新入生が入部しないものかと考えていた。そこで出会ったのが一年生の佐藤さん。なんと曲がり角でごつん。だが、彼女はそのときストーカーに追われていた。葉山君は彼女のために一肌脱ぐことに・・・(「ハムスターの騎士」)
〈卒業式編〉の続編。まずは〈卒業式編〉から読んでくださいね、絶対。
●「ハムスターの騎士」
新入生と曲がり角で衝突した葉山くん。彼女はストーカーにつけられていたという・・・出会いからしてありえないのですが、ラブコメならベタなこの出会いが非常にうまいなあと思います。何がどううまいのかは読んでのお楽しみです。
●「ミッションS」
三野からの依頼。それは教師の机の引き出しにあるカードキーのすり替えだったが・・・なんともまあそんな理由で。馬鹿らしくて笑ってしまいましたが、柳瀬さんの「声年齢チェンジ」でも笑ってしまいました。
●「春の日の不審な彼女」
葉山くんに続けて届く手紙。それは謎の脅迫状なのか・・・柳瀬さんがここでもやってくれます。さすが演劇部長。まったくもって報われない葉山くんに問いたい。「これでいいの?」と。
●「And I'd give the world」
葉山くんが呼びだした理由は重要な話・・・これはなかなか重い話、のはずですが、なんだかとっても軽妙。でも思い込みって怖いなあと再認識しました。
●「よろしく」
そしてこういうことになりました・・・伊神さんの今までと違う一面が見られて、ちょっと意外。
それぞれの物語で使われるトリックは適度に複雑、適度に単純という感じ。短編にはお似合いかもしれません。そんなトリックでも、解くのはあの人なのですが。
ただし、ミステリ的な見どころは〈卒業式編〉から続く仕掛け。断章も含めてあの話もこの話もすべてが収束していく様は圧巻です。
登場する人たちもそれぞれにおもしろく振る舞ってくれました。柳瀬さんは「声年齢チェンジ」に限らず演劇部長としての力を存分に発揮してくれたし、しっかり葉山くんにモーションをかけてくれます。また新登場の佐藤さんも伊神さん顔負けなくらい葉山くんを振り回してくれます。これは楽しい。
加えて続編では、きっと兄と一緒に銀座に画廊巡りに行くような妹が登場してくれそうな気がします。きっと。
収録作:「ハムスターの騎士」「ミッションS」「春の日の不審な彼女」「And I'd give the world」「よろしく」
関連作:『理由あって冬に出る』『さよならの次にくる〈卒業式編〉』
- ミステリ読書録さま(2009.10.22追加)
さよならの次にくる<新学期編> (創元推理文庫) | |
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