辻村深月『ふちなしのかがみ』

 クラブでサックスを弾く高校生の高幡冬也に一目ぼれした香奈子。冬也を一目見るためにクラブに通いだしたが、それだけでは満足できない。未来を鏡に映す方法を聞いた香奈子はそれを試してみた。午前零時、鏡を振り返るとそこには女の子の姿が。きっと彼との子供に違いない・・・(「ふちなしのかがみ」


 辻村さんの新作は、ホラーな短編集。
「踊り場の花子」
 学校の花子さんを夏休みの自由研究にしたさゆり。この学校の花子さんは階段にいて、七不思議があるという。だが・・・5編中、もっとも怖さを感じた作品。七不思議とか、花子さんというような、よく知られているものを使ったところが怖さを引き出しています。作品の全体像が見えた瞬間がたまりません。
「ブランコをこぐ足」
 勢いよくブランコをこいでいた少女は、そのままブランコから飛び出して転落死した・・・こういう行動に出たくなる気持ちは十分に理解できます。実行に移すかどうかは別ですが。ハイジがこんな形で効果をあげるとは思ってもみませんでした。今さらながらに思うのですが、どうしてコックリさんをすると怒られたんでしょう。教えて、おじいさん。
「おとうさん、したいがあるよ」
 認知症が進行してしまった祖母の家の掃除に向かったつつじと両親。ところが、犬小屋から少女の死体が・・・ホラーというよりはとってもシュールなブラックユーモア。その都度反応がリセットされている両親や、冷静にことをこなす元カレなど、不条理感満載。
「ふちなしのかがみ」
 未来を映す鏡。そこに映し出されているのは彼と私の子供・・・予想していたのとは違った鏡の使い方でした。ミステリ作家だからこそ書いたホラーという感じ。こういう技術は巧みですね。思わず二度読み。
「八月の天変地異」
 僕がこんな目に遭うのはキョウスケのせい。あいつが喘息じゃなければ。「うちの子をよろしく」なんて言われなければ・・・ホラーというくくりよりもむしろ心温まるファンタジー。この作品が巻末にくることで作品集全体のイメージがよくなりました。


 ホラーとは言うものの、全体に恐怖要素は薄味。その中でもっとも怖さを感じさせたのが「踊り場の花子」でした。日常から非日常へ、その境界線を感じさせないような少し不思議な物語たちが集まっています。
 ところで、今回はどこかで旧作とリンクしていましたか? 全然気が付かないのですが。


収録作:「踊り場の花子」「ブランコをこぐ足」「おとうさん、したいがあるよ」「ふちなしのかがみ」「八月の天変地異」

2009年8月27日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
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ふちなしのかがみ
ふちなしのかがみ辻村深月
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