北國浩二『リバース』

 人気美人タレントに似た恋人美月をエリート医師篠塚に奪われた省吾。納得できないのはもちろんだが、篠塚が美月を殺害するという予知を聞かされ、それを阻止しようと奔走する。だが、周囲の人間は省吾の諦めの悪さに呆れたり、嫌悪したりする。どうしたら美月を救い出すことができるのか・・・


 一言で表現するならば、残酷なミステリ。いや、決して殺害シーンが見るに耐えないとかそういうことではありません。登場する人たちに与えられた運命が残酷なのです。厳しいのです。思い起こせば、前作『夏の魔法』もそんな要素がある作品でした。
 離れていった美月を諦めきれず、ストーカーのように追いかけ続ける省吾がとにかく痛々しいです。美月の心に迷いはなく、完全に省吾から離れているのがはっきりしているのです。省吾は傍から見れば諦めの悪いやつで、近視眼的とでもいうべきでしょうか。もっとも、そんな省吾の狭い視野が作品全体の複雑な事象を見えにくくしており、それ故にミステリとしてサプライズの効果が大きくなっています。伏線を隠すのを手助けしているともいえるでしょうか。


 ただ、この物語の最大の弱点は、省吾がひたすら追いかけ続ける美月という女性がとても魅力的には見えない点。確かに美人なのかもしれませんが、どこに惹かれたのかさっぱりわかりません。彼女との関係が省吾を突き動かす原動力になっているだけに、彼女の描き方如何で作品全体の説得力が増したでしょう。


 省吾の痛々しさは、読み始めてからかなりの部分まで前面に押し出されています。それだけで読むのをやめようとする人もいるでしょうが、それはちょっと待ってください。怒涛のように真相が明らかになる後半は、前半が見事に練り込まれていることを証明しています。最後まで読んでもらえれば、きっとミステリらしい驚きに次々と出会えるはずです。
 『リバース [ 北國浩二 ]』というタイトルが、本当に理解できるのは本当のラスト。カタカナだけで英語表記がなかった『リバース [ 北國浩二 ]』がどういう意味を持つのか、ぜひ確認してください。

2009年8月1日読了 【9点】にほんブログ村 本ブログへ
リバース
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