桜庭一樹『ファミリーポートレイト』
逃げ続けるマコとコマコ。母のマコは美しく、娘のコマコにとってそんな母がすべてだった。たどり着いた山奥の村、海辺の町、養豚場がある町、巨大な庭園がある豪邸。どこまでもマコは逃げ続け、コマコはついて行く。たとえこの世の果てでも、コマコはマコから離れない・・・
少女の生き方と同時に家族を描いてきた桜庭さん。この作品もタイトルだけ見てもそれとわかる、家族を扱った物語です。そしてその対象は母と娘。
駒子という女性の幼年期から青年期までを描くこの物語は、母娘関係という切り難い絆の呪縛とそこからの開放を意味していました。母親だけを信頼し続け、母親から「愛している」「私だけのコマコ」などと言われ続けてきた娘。
この第一部がなんとも重く、憂鬱でした。虐げられたような不幸な生い立ちはもちろんそれだけでも気が重くなるものですが、第一部全体に暗いフィルターがかけられているかのようでした。二人が転々とする町はどこもちょっと幻想的で、どこもちょっと物悲しいところばかり。決して母を見捨てず、そればかりか健気に母を愛するコマコの姿はかなり痛々しく見えます。
一方、上のあらすじでは触れなかった第二部は、マコが姿を消した後のコマコの青春と成功を描きます。コマコの姿は桜庭さん本人と重なって見え、直木賞を受賞したからこそ書けた作品のような気がします。第一部と比較すると、かなり現実的です。
マコの存在に引きずられながらも、そのマコを頼りに生き抜いていくコマコ。たとえマコの姿は消えようとも、この物語は徹頭徹尾マコとコマコの母娘の物語に他ならず、桜庭さんが書きたかったことが伝わってきます。特にラストエピソードは感動的でした。
ファミリーポートレイト | ||
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