加納朋子『少年少女飛行倶楽部』

 幼馴染の樹絵里に誘われた「飛行クラブ」。部長を名乗る斎藤神は変人で傍若無人傲岸不遜。だが心から空を飛びたいと願っている。渋々入部したが、海月と樹絵里を加えても部員は4人。5人という部の最低要件すら満たしていなかった。こんなことで空を飛べるのか。海月は部員探しを始めた・・・


 加納さんがあとがきで「底抜けに明るい青春ものが書きたくなった」と書かれているとおりの、明るい青春小説。きっと誰もが思ったことがある「空を飛びたい」という夢を思い出させてくれます。
 集まってくる部員は一癖も二癖もある人物ばかり、しかも珍名ばかりで。
 だからこそ海月(みづき)の苦労が目に浮かぶのですが、それが大変そうというよりも楽しそうに見えてしまうから不思議。これが加納マジックかな。まあ、彼女の周りに人が集まってくるというのはなんとなく理解できる気がします。なんだかんだと言いながらも、海月はこういう現状が好きなタイプですね。なにせ「飛びたい」ではなく「飛ばせてあげたい」と言い切るのですから。


 カミサマ部長に限らず、ほかの部員もみんなちょっと変わり者。例えば海月に頼りっきりの樹絵里(じゅえり)、高所平気症で破天荒な朋(るなるな)、噂好きで意地の悪いイライザ。間違いなく嫌われるような人物もいますが、加納さんの手にかかるとそんな人物さえも愛らしく思えてしまいます。るなるながあんな方法を使ってでも参加しようとした姿は印象的です。


 冒頭の『「空を飛ぶこと」に関する条件』がいきなりワクワクさせてくれますが、空を飛ぶことに極度の期待をかけるとやや拍子抜けするかもしれません。いや、僕はこの方法でも風を感じて飛べるので、中学生という段階では十分にありだとは思うのですが、こればかりは読者それぞれの受け取り方ですから。ここから本当の飛行へとどう繋がっていくのか、その先が楽しみだったりします。
 もうひとつ、加納さんならばやはりミステリ、あるいは日常の謎を期待してしまいます。今回はそういうものがなくても楽しめる作品でしたが、次はまたミステリも読みたいです。

2009年7月5日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
【感想拝見】

少年少女飛行倶楽部
少年少女飛行倶楽部加納朋子
文藝春秋 2009-04
売り上げランキング : 15102

おすすめ平均 star
star良質のラノベたりえているかもしれないが・・
star偶然が過ぎて魔法話のようだ
starリアルタイムの中学生にも是非読んでもらいたい!
stars「きっと夢はかなう」と、ひたむきにチャレンジすることの素晴らしさ。主人公のくーちゃんが輝いていたなあ。青春小説の傑作!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
asin:4163281606 rakuten:book:13179737