恩田陸『きのうの世界』

 3本の塔がそびえる塔と水路の街、M町。隣接するK市とは、飛び地である丘の所有を巡る諍いがあった。その丘へ続く水無月橋で、腹に傷を負ったひとりの男の遺体が発見された。男は丘の一軒家を借りていた市川吾郎。色川と偽名を名乗りM町では余所者としてで見られていたが、彼は一年も前に東京から忽然と姿を消していた・・・


 まとまってよかった。この一言に尽きるでしょう。
 恩田さんの作品の傾向として、魅力的に広げられた風呂敷を畳み切れない、まとめ切れないところがあります。それだけに今回もそんな作品ではないのかと危惧したのですが、どうやらいらぬお世話だった模様。オチまでまとまっています。多少積み残したものが多い気はしますが。


 が、このオチ、このトリックはなんなのでしょう。かなり大仕掛けのとんでもないオチ。いや、絶対ないとは言い切れないでしょう。あるいはこの真相。思わず脱力してしまいました。


 ただ、ここに至るまでの過程ではいかにも恩田さんらしいものでした。一地方都市であるM町を叙情豊かに描き、市川吾郎の死や3本の塔の謎は読者の興味をひきつけます。章ごとに代わる語り手はそれぞれいわくのありそうな人物ばかり。街に張り巡らされた水路やK市との確執、焚き火の神様など、本当に盛りだくさんのエピソードで盛り上げていきます。大仕掛けの直前までは。市川吾郎の特殊能力なんて、「この人は常野の関係者なのか?」と疑ったりしました。


 初出は新聞連載だったそうで、構成上の無理がいろいろ出てきてしまったのかもしれません。もったいない気がします。

2009年6月8日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ
きのうの世界
きのうの世界恩田陸
講談社 2008-09-04
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starsこの不安感と不安定さが恩田陸の世界
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