福田和代『黒と赤の潮流』

 阪神大震災で両親を喪った間嶋祐一。彼は将来有望なスプリンターだったが、事故によるケガで選手生命を絶っていた。そんな彼の元にやってきた警察官が見せた写真。それは震災以来行方不明になっていた友人ドゥアンのものだった。しかも、彼は殺されていたのだという。いったい何が。背後に影を感じた祐一は、やがて大海原へと出て行く・・・


 熱さが要求されるタイプのハードボイルドであったように思います。
 主人公である間嶋祐一は、友人のドゥアンが殺されたと知ったことから、20年前の事件、あるいはそれに起因する人間関係に首を突っ込んでいきます。ただ、この危険な部分にここまで深く関わっていく理由が何なのか、イマイチ納得がいかない部分が気になりました。なんだか惰性で流されるままだったにしてはあまりにも危険ですし。言い換えれば、彼の強い意志、意気込み、熱さが見えなかったということでしょう。
 おかげで、この間嶋祐一という人物の輪郭がなんとなくぼやけてしまったような印象が残りました。例えば、両親を震災で喪ったことも、事故で未来が見えなくなったことも、あまり影響がないように思えます。ただただ先の見えない学生生活を送り、ドゥアンやタオと仲間になっただけのような感じです。使い方次第でもっとおもしろくできる人物だと思えるだけに、もったいない気がします。むしろ脇役のほうがその経歴や言動がおもしろそうでした。いや、脇役だからこそそう思うのであって、主役にはなりえないような人たちかもしれませんが。


 もっとも、何がどう絡んでいるのかわからない前半に比べると、ストーリーは後半ほど盛り上がりを見せていきます。このあたりの書き方はさすがに巧みです。見どころはもちろん、大海原での船上シーンとその後。ここで見られる激しさ、熱さが序盤から見られたらまた違った印象を持ったに違いありません。
 また、登場人物に悪人らしい悪人がいないからでしょうか、登場人物への感情移入がしにくかったように思います。読者から見ていかにもといった感じの悪人が登場すると、そのカウンターパートにはもっと感情移入がしやすく、ひいてはもっとおもしろく読めたのかもしれません。


 全体を通して惜しいと思える部分が多かった作品。福田和代さんが力量がある作家だということは『TOKYO BLACKOUT』で証明済み。もっともっと楽しませてくれると思うので次回作にも期待します。

2009年4月17日読了 【6点】にほんブログ村 本ブログへ

黒と赤の潮流
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