米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』

 「バベルの会」。それは大学で上流階級の子女であることを条件に入ることを許されるらしき読書会。そんな良家では大概何名かの使用人を抱えていた。ある者は家事全般を司り、またある者は別荘を管理して主人や来客が顔を見せる日を待ち続けた・・・


 最後の一文の衝撃を売りにした米澤さんの新作短編集。それと知っていたら衝撃が薄まってしまうような予感もしましたが、そんなこともないようです。
「身内に不幸がありまして」
 丹山家の娘吹子に仕える村里夕日。彼女の秘密の手記には、吹子が「バベルの会」読書会を楽しみにする様が記されていた・・・そんなことのために! そう思わずにはいられない。いくらそういう人だからとはいえ、最初からとんでもないものを出してきたなあ。
「北の館の罪人」
 六綱家の別館に暮らすことになった妾腹の子あまり。ところが別館には先客がいた・・・隠されていた裏側とが明らかになるとき、そして最後、思わず二度もドキリとさせられました。読み手以上に登場人物がドキリかも。
「山荘秘聞」
 別荘飛鶏館で客を待ち続ける管理人屋島守子。冬の日、彼女は遭難した登山者を見つけ、飛鶏館へと連れ帰った・・・そっちじゃなくてこっちか。まったくしてやられました。しばらく考えてしまいましたが、よく見るときれいに伏線が張られています。
「玉野五十鈴の誉れ」
 旧家の跡取り娘純香。彼女の誕生日に祖母から贈られたものは、同い年の使用人五十鈴・・・『Story Seller』で既読。ただし、初出のときとは最後の部分が変わっていて、その一文が本当に衝撃的。いや恐ろしい。
「儚い羊たちの晩餐」
 荒れ果てたサンルーム。円卓に置かれた一冊の日記。最初の頁には「バベルの会はこうして消滅した」・・・書き下ろしの一編。さすがにうまくまとめますね。終わりは始まり、です。アミルスタン羊か。


 「最後の一撃」「ラスト一行の衝撃」なんて言葉からは、まるで物語の世界が反転するようなものを想像してしまいますが、この作品集はそういったものではありません。むしろ物語をきれいにまとめる「とどめの一撃」とでもいうような感じです。
 ということで、帯や紹介文からの期待とは少し違うので若干がっかりするかもしれませんが、それを抜きにすれば黒米澤全開の歪んだ素晴らしい作品集。帯のことは忘れて読んでください。
 様々な趣向が凝らしてあり、どれもおもしろくて堪能できるのですが、「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」といったところのわかりやすい一撃がよかったです。もちろん、「玉野五十鈴の誉れ」の強烈なインパクトも。


収録作:「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「山荘秘聞」「玉野五十鈴の誉れ」「儚い羊たちの晩餐」
関連作:『Story Seller

2009年2月2日読了 【9点】
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starバベルの会――幻想と現実の狭間で惑う、儚い者たちの聖域(アジール
starsラスト一行の衝撃ではない(ラスト数ページの衝撃が正しい)

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