伊坂幸太郎『モダンタイムス』

 突如失踪した先輩五反田に代わってあるプロジェクトを押しつけられたSEの渡辺拓海。ただ出会い系サイトの入力項目を1つ増やすだけなのに、そのプログラムを解析して、あるキーワードで検索すると秘密のサイトにたどり着くことを知ってしまった。それは災難の始まり・・・


 『魔王』から数十年後の世界。「呼吸」の安藤詩織が登場します。
 今にして考えれば、『魔王』も『ゴールデンスランバー』も、そしてこの『モダンタイムス [ 伊坂幸太郎 ]』も国家や社会と個人との関係、すなわち国家システムに守ってもらえるとは限らない、妄信してはいけないということを描いているように思います。決して国家や社会への不審を煽るのではなく。
 検索から始まる監視と情報の操作。数十年後と言わず、現在でも人知れず行われているのかもしれないこと。私たち人間はなんて無防備なのでしょう。
 そんな小難しいことを考えなくても、この作品は渡辺拓海に降りかかる恐怖と災難の根源を目指すエンターテインメントとして十分に楽しませてくれます。


 ただし、今までの作品にあった伊坂さんらしさが薄いように感じました。週刊誌連載の影響でしょうか、シーンがややぶつ切りになっているような印象があります。なんとなく、きれいにつながっていないのです。それに、伏線の回収は張り巡らされたものを怒涛のように回収するというよりも、むしろ説明されないものが多く残されたようでした。他の作品のようにスマートではなく、かなり粗いつくりですし。セリフの言い回しとか確かに伊坂さんなんですけど、あまり伊坂さんの作品というイメージを持たずに読んだほうがよかったかもしれません。
 登場人物の中では、渡辺の妻佳代子のインパクトが抜群でした。何者ですか、あの人。彼女の以前の夫二人はどうしたんだ。ということで、きっとまたどこかで登場してくることでしょう。

関連作:『魔王

2009年2月1日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
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モダンタイムス (Morning NOVELS)
モダンタイムス (Morning NOVELS)伊坂幸太郎
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おすすめ平均 star
star新時代。
starネットワーク社会への警鐘
star伏線が回収できていなさすぎ
starsキャラクターが良かった
starsえっ?これで終わりですか?

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