北山猛邦『少年検閲官』

 書物を所有することが禁じられた世界。旅を続ける英国人少年クリスは風変わりな町に行き着いた。家々には赤い十字架模様が落書きされ、周囲の森では首なし死体が次々と見つかる。人々は森に住む「探偵」の仕業だと言い、首なし死体を自然死として扱うのだが・・・


 ミステリ・フロンティアの一冊。
 読み出すと、とにかく冒頭の序奏が長く退屈で波に乗れず、これが続くのなら放り出そうかとも考えたりもしました。しかし、結果的に最後まで読んだのが吉。ここで提示された世界設定が結末まで重要な意味を持つのですから。そして、この世界設定も読み進めるうちにとても興味深く感じられます。書物がない。所有しているだけで厳罰に処される。愛書家、読書家にとってまるで地獄のような世界設定。書物は諸悪の根源であり、書物がないから人々は殺人もミステリも知らないのです。もう怖いもの見たさ。
 北山作品ならやはりトリックは気になります。こちらは実現性にやや疑問が残るものの、まあ納得の範疇かなあというところ。これはこういうものだと割り切るのがいいのかな。何よりも、この世界に密接に結びつき、この世界でなければありえないというのがポイントでしょうか。


 また、諸刃の剣のように思われるのは「ガジェット」の存在。おもしろい試みではあると思うのですが、ひとつ間違えると作品全体をぶち壊してしまいそうな危険性を感じます。シリーズ化していく中でも登場するでしょうが、「ガジェット」の扱いが成功と失敗の大きな分岐点になるのかも。
 語り手クリスと少年検閲官エノという微笑ましい関係のふたりにはきっとまたいつか出会えるはず。そのときを楽しみに待っています。


2008年12月4日読了 【7点】にほんブログ村 本ブログへ
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少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)
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