道尾秀介『ソロモンの犬』

 秋内静の目の前で起こった交通事故。亡くなったのは、愛犬オービーに引っ張られ道路に飛び出した幼き友人陽介だった。飛び出す直前にとったオービーの不可解な動きは?秋内は、事故の謎を探るためにロードレーサーで走り出した・・・


 道尾作品の特徴といえば、巧みに配置された伏線による世界が変わるかのようなどんでん返しです。僕自身、過去三回もそれにやられていて、今回もある程度注意を払って読んだのですが、やはり見抜くことはできませんでした。なんとなく気にはなるものの、前後との関係からスルーしてしまったり。いつものことながら、この伏線テクニックは本当に上手いですね。
 また、秋内が事故の謎を探るために動物生態学の間宮助教授と奔走する部分が、助教授のキャラクターもあってなかなかおもしろかったです。間宮助教授は変人的なキャラが立っていて、他の作品でも使えそうなほど。問題は動物の関わる謎でしか使い物にならないことでしょうか。
 ミステリと平行して、友江京也、巻坂ひろ子、羽住智佳と繰り広げられる学生生活も読んでいて引き込まれました。智佳に淡い恋心を抱く秋内の言動は、瑞々しいと言うか、初々しいと言うか、痛々しいです。その辺が、青春小説としての一面を出すだけでなく、ミステリ部分にも大きく影響を与えているだけに、否定はできないのですが。


 おもしろく読み進めて、事故の謎のことなんてすっかり忘れてしまうような作品でした。しかし、ミステリ的に見てこの真相はどうなのでしょう。後味の悪さはないかもしれませんが、拍子抜けの感じは否めません。そこが残念でした。
 表紙に象徴されるように、今まで読んだ道尾作品の中では最も明るい雰囲気を持っています。青春ミステリが好きな人にはオススメ。

2008年11月7日読了 【8点】にほんブログ村 本ブログへ
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